WadeZenta

エルヴィスのWadeZentaのネタバレレビュー・内容・結末

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2つこの映画を観て後悔があった。

一つは映画館でこの映画を観れなかったこと。
もう一つはエルヴィス・プレスリーのことを何も知らぬまま見てしまったこと。

それくらい素晴らしい映画だった。

エルヴィス役のオースティン・バトラーはもちろん、大佐役のトム・ハンクスも圧巻。

懐かしい伝説の音楽と演技力だけで感動を誘う映画かと思っていたが、全然そんなことは無かった。


エルヴィスには3人の”父”がいた。母を失い、その3つの父によってエルヴィスの物語は転がっていく。
※ここでいう”父”とは子と共通の属性を持ち、乗り越えるもの、もしくは戦う相手として描かれる存在を指す


実の父であるヴァーノン、大佐、そして時代(アメリカ)である。

◆ヴァーノン
彼が音楽に触れるきっかけを間接的にも作り、その後ずっとそばにいることになる。
実の父であるのに、その振る舞いは全く父親らしくなく、大佐や時代に翻弄される存在である、エルヴィスと同じく。

◆大佐
この物語自体が大佐の釈明からはじまる。
何も持たない彼は、何も持たないことを誰にもバレたくない、と動く存在だった。
まさに光にべったりとつきまとう影。
個人的に本当にムカつくキャラだったw
(それだけ素晴らしい演技だったということです。)
カオナシのような存在、だというと分かりやすいかな?ちょっと違うけど。

◆時代(アメリカ)
あえて父という言い方をしている。
なぜならこの時代が彼を作り上げ、そして殺してしまったことを映画全編を通して強く伝えていたからだ。
この時代だからエルヴィスはロックに出会った。そして印象的な歴史的事件。キング牧師、R•ケネディ、シャロン•テート、彼らの死が色濃く描かれてその都度エルヴィスは立ち止まり考える。劇中度々描かれるこれらのシーンが本当に好きだった。
大佐はこういった出来事になんの関心すら抱かない点についても忘れてはいけない。
いずれも何かを成し遂げようとして亡くなった人間たちの死は、意味ないものでは全くなく、次の時代を動かしていく人々の力の源になっていることを鮮烈に映していた。(エルヴィス自身もそうなることについても同様。)
悲しいが、それは次に繋がっていることを示してくれた。




特に冒頭から中盤までは場転が多く、それらをシームレスに繋ぐような編集が凄まじい。短い人生を凄まじいスピードで駆け抜けるエルヴィス自身のような演出に気持ちが昂った。

先ほど説明したような、歴史的事件のフラッシュバックとともに、彼の記憶の中にある音楽が、映像とともに交差しながら描かれるシーンは、歌を歌う人間にフォーカスがされているようでとても力強い。

物語と手法が美しいほどにリンクしている様に圧巻した。

改めて、彼の人生、そしてアメリカの歴史を振り返るきっかけを与えてくれてありがとう。
エルヴィスの影響力は今の今までも計り知れない。
WadeZenta

WadeZenta