まえ

TAR/ターのまえのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.9
ケイト・ブランシェットの努力と才能で築いた権力を持つ人間の立ち振る舞いの演技と、内面の不安感を煽るトッド・フィールドの演出の掛け合わせが生み出す切迫感がすごかった。

「素晴らしい芸術を創り上げる」という崇高な目的の中に人の野心や悪意、組織に蔓延る権力が絡むのはリューベンの『ザ・スクエア』にも感じたけど、こちらは権力構造を頭の中では受け入れつつも、精神面が拒否しているのがわかるような背反した感情が垣間見えるのが大きな違いだと思う。

もちろん意図的だと思うけど、前半は長回しを多用していたのに、後半はある出来事をきっかけに打って変わってダイジェスト並みのぶつ切りでシーンを切り替えたのが印象的だった。
どれだけの才能と努力で築いた地位も、高慢さと油断で砂上の楼閣のように崩れていく。

ラストシーンも2時間半に渡りリディアを見てた人なら容易に想像がつくけど、あれを立ち向かう前向きさと捉えるか、何も変わらないことへの皮肉と捉えるかは観た人それぞれが決めること。
勇気のあるものだけが海原へ繰り出す。去るものを誰も責めたりしない。
まえ

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