まえ

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版のまえのレビュー・感想・評価

4.4
みんな驚くくらい喋り倒すし、画面も情報量が多いから付いていけるか不安だったけど、こういう表現の仕方は現代社会の情報量の多さにも似ている。

セリフの多さはそのまま、こんなにも話しているのに誰も自分の声を聞いていないんじゃないか感じる不安のように思えるし、手に負えない速度で否応なしになだれ込む情報量に誰も付いていけない。だから真っ当に他人の相手の心にむきあえないし、互いにそれをわかってるから、会話もどこか上の空で満たされず、くだらない失言をしてしまう。誰も彼もが分かり合えない悪循環。

誰もが社会に溶け込むために、みんなの思う自分の「フリ」をして生きていて、言いたいことは言葉にならないから、どうしてもありきたりな陳腐な言葉ばかりが並べられていくのは、誰しもに当てはまるからこそ、もの悲しい。

それでも理屈ぽい会話の中に、人々の滑稽さだったり、知性を見出して、他者との関わりの中に自分に希望を発見することもできるのかもしれないと思うと、くだらない日々も後悔も別れも意味がある思えるのかもしれない。

「恋愛時代」よりは、原題の「独立時代」の方がしっくり来る。英題の「A confucian confusion」もいいタイトル。都会に住んでいる限り感じる社会と人々と恋人に感じる自分との隔たりを思う限り何度も観たくなる作品。チチみたいに「誤解されても、自分さえ信じていれば平気」って心から思えるようになれればいいのだけれど。

それとメインテーマの「Don't you ever try to break my heart?」が作品にぴらったり過ぎてる。ただ音源が探しても見つからないから、予告編を観て何度も短いフレーズだけを繰り返してる。
まえ

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