ぬ

TAR/ターのぬのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.9
好きか嫌いかわからない映画。
ケイト・ブランシェットの演技はまちがいなくすげぇ。
個人的には『リプリー』や『キャロル』の可憐な印象が強く、見るたびにキャ〜!素敵!ってなっちゃうような人なのに、この映画のケイト・ブランシェットは、いくら見目麗しくとも腹立つし絶対関わりたくない鼻持ちならんヤツだったもの…
個人的にこの映画を全部観れたのは、間違いなく半分くらいケイト・ブランシェットパワーのおかげかも。

やっぱ有名になって地位や名誉を手に入れると、あんなに支配的で偉そうになっちゃうんでしょうか人間。
ターの気取った全能感のウザさ、表現するのうますぎケイト様。
でも、ろくでもねぇことしたのが事実でも、やってないことをやったように言われるのは違うよね、ろくでなしでも。
若いチェリストとの間の、あのジェネレーションギャップ、ものの捉え方や見方のギャップ、お互いへの気持ちのギャップ、きつい。(うまい)
もしかしたらターは、自分に不足しているもの、自分が今の地位にたどり着くまでに不可逆的に失ってしまったものを、あのチェリストの子に見出して執着していたのかもしれないね。

一番気になるのは、父権主義的・ホモソ的な世界で成功するために、自らもそこへ染まってしまった、またはあえて自ら染まって、その価値観を内在してしまった女性というのはたしかにいるので、ターのような存在は全然ありえるのだけど、主人公のモデルは実在する男性指揮者ギルバート・キャプランと言われているのに、なぜこの映画では女性にする必要が?というところ。
ターを女性にした理由は、おそらくいわゆる"おじさん"がターのような父権主義的な態度であっても、ある意味「普通すぎる、あるあるすぎる」ためにわざわざいまさら描いても、ってなるから、一見して父権主義からほど遠そうな印象の存在であるゲイ女性(だとしたら、その見方もかなりヘテロによる偏見だと思うけども…)を、あえて父権主義の権化みたいなキャラにすることで、彼女がそうなってしまった背景を際立たせようとしている?
そして、ターは一見自分のために周りを利用しているように見えて、実はター自身が父権主義的な業界や所属オケから、女性でゲイであるという彼女の持つマイノリティ属性を利用されて、珍しい存在であるために常に注目されているがために、他の男性指揮者なら当たり前に見過ごされてきたようなことでも批判の矢面にも立たされている、ということを描くため?
そういった意図がないのならば、主人公を女性に変えたのはミソジニスティックな改変と思われる可能性大だし、そんなことしないよな今の時代、と思う。(から、そういう意図があるのだと思ってる)
ぬ