ぬ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのぬのレビュー・感想・評価

4.5
マーティン・スコセッシの映画やはり好きです。
「エンタメ性のある映画という形で、人々に実際に起きている問題を伝える」という役目を背負って映画を撮っている気がする。
そのスコセッシの使命的な思いに、役者はじめ制作に携わったすべての人々の熱が乗ることで、まー長いんだけど、長いんだけど、時間をかけて作る価値も、時間をかけて観る価値も十分にある作品に仕上がっている。
ハエが出てくるシーンとかも暗喩的で演出が良かった。(割と最近観た『逆襲のトライアングル』でも似たようなハエの演出があった)

ストーリーから感じたことをまとめますと
・人間を非人間化して分断するのはやめよう
・資本主義が諸悪の根源、ゴミクソ
・信用する相手は慎重に選ぼう
というかんじでした。

内容は、私が最近のイスラエルによるパレスチナでの虐殺にも感じている「非人間化(することによる分断)」が克明に描かれていて、今このタイミングで観て考えるべき映画だと思った。
この映画において、先住民の富を奪うためなら殺人も厭わない入植者たちは、自分の気に入らない先住民のオセージ族の人々を非人間化する=人間ではないと思い込むことで、その人々から人権を奪ったり傷つけたりすることを正当化したり、罪悪感から逃れようとしている。
民族間の違いを、すべて"優劣"という物差しで測り、「私たちより遅れていて"劣っている"民族は、私たち優れている民族が躾けて管理してやらなければいけない」という考え方。
心からそう思っているからこそ、あんなになんの罪の意識もないように人を虐げることを正当化できるんだろうな。
そしてこの映画の主人公は、自分と同じ入植者たちが、当然のごとく先住民たちを非人間化している環境に移り住み、流されていく…
その、確たる強い意志もなく、長いものに巻かれ流されるままの男を、ディカプリオは非常にうまく演じている。
考えなしで調子に乗りやすく、あきらかにやっていることは悪だけれど、完全に悪側に馴染み切ることもできない、その中途半端で流動的な主人公の立ち位置が、鑑賞者に「自分がその立場だったら?」と想像させる余地を持たせている。

実はといえば、昔の私ならばこの映画を観て「あんなひどいことするなんて、あの入植者たちこそ人間ではない」と、先住民たちを蹂躙した入植者たちを、まさに"非人間化"することで批判し、その存在を自分とまったく切り離そうとしていたと思う。
しかし今の私にはわかるよマーティン・スコセッシ…誰でも生まれや時代など環境によっては、この映画における虐げられた先住民のような立場になる可能性、先住民たちを蹂躙する入植者のような立場なる可能性、どちらも持っているということが…
だからこそ、こういう映画きっかけにでも自分を教育して、他者を非人間化して自分と関係ないと切り離すのではなく、過去から学んで考えて、今の自分がどのように振る舞うかを省み続ける必要があるんだね。
この世で虐げられ命や尊厳を奪われてきた人たちは、決して私たち鑑賞者の"教材"になるために存在していたわけではなく、ひとりひとりの人生を生きていた人間だと忘れてはいけないし、けど同時にこの人間が引き起こした悲劇をまた繰り返さないためにすべきことはやはり、過去から学ぶことなのだと思う。

あとやっぱ金ですわ…
今のイスラエルに対するアメリカの態度もおなじ、資本主義が人間の倫理を壊す。
そんなに金持ってどうするの?血まみれの金で何を買うの?生きてる間に使い切れもしないような金、死んだら一緒に土に埋めるんか?
最近なにもかも諸悪の根源は資本主義なのではないかと思っているんです、本気で。
資本主義というシステムこそ、この世の万物、人間さえも「資本的価値がどれくらいあるのか」という基準でもって値踏みされてしまう社会を作り上げているのだから。
資本的価値のない人間はゴミのように扱われ、資本的価値のある人間も利用し合う、ろくなことがないシステムじゃん。
人間社会の行く末は、この腐った資本主義をどう克服していくかに掛かっているのではないかな。

そして人間関係について、平気で誰かを利用する人っていうのは、関わらなくて済むならやっぱ関わらんほうがいいです…
「よそ者にはひどいけど、仲良くなると優しい」みたいな人は信用しないほうがいいよほんとに。
今は友好的でも、その人があなたと付き合うメリットがない/あなたに利用価値がないと判断したら、平気であなたのことも裏切りますからね!!!気をつけなはれや!!!!

途中で集中して観るのしんどくなるかも、と懸念して観に行ったけど、自分の場合はそんなこと全然なく、ずっと集中して観られたし、無駄なシーンが1つもない…(内容はかなりしんどいけども)
マーティン・スコセッシすげーーー
『ディパーテッド』『沈黙 -サイレンス-』も好きです!!長くてきついけど!!
ぬ