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たまらん坂のakrutmのレビュー・感想・評価

たまらん坂(2019年製作の映画)
3.5
黒井千次の短編小説『たまらん坂』を読んでいくうちに小説の世界に惹き込まれていく女子大生ひな子の主観を映像化するとともに、読書をきっかけとしてひな子自身の幼少期の秘密が明らかになっていくという現実世界の出来事も描いた、小谷忠典監督のドラマ映画。

小説を朗読しながらその世界をある意味で客観的に表現していく映像からはじまって、そのうちにひな子自身がその世界に入っていったり、自分の母親に対する想像をアニメーションで表現したりと、芸術的にチャレンジングな作品だと思う。元々は、武蔵野大学での映像実習としてスタートして、その授業に参加していた唯一の1年生であった渡邊雛子が主人公のひな子を演じることで長編映画として制作されることになったそうである。

芸術性を追求する分、内容的にはおとなしいので、その点は物足りないかもしれない。でも、たまらん坂そのものや黒井千次の小説、RCサクセションの楽曲に思い入れのある人だと、十分に楽しめるだろう。個人的には、何かを誤解しているのかもしれないが、ひな子が4歳のときに母親が亡くなったのに、ずいぶんと歳の離れた弟がいるという設定がとても気になってしまった。

黒井千次さんもワンシーンだけ出演している。芥川賞の選考委員を退任したのもずいぶんと昔だったけど、まだまだ若々しくて元気なのには、ちょっと感動した。
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