えいがうるふ

君を想い、バスに乗るのえいがうるふのレビュー・感想・評価

君を想い、バスに乗る(2021年製作の映画)
4.0
飯田橋ギンレイホール、現況での最終上映作2本のうちのひとつだった。
自身の老い先も危うい爺の決死の一人旅ロードムービーだなんて、もうその設定だけで映画のなりたちは想像がつく。実際、最初から最後まで予告編からイメージした通りの展開だったのだが、作品の佇まいが鑑賞環境とタイミングがこれ以上はないほどストレートにハマっていて、ぐうの音も出ない。

SNSを使った演出など現代らしさも盛り込んではいるが、ベースとしてはバスで一人旅をする老人が長い道中で何度も窮地に立たされるが、結局は人々の善意とやさしさに支えられて・・という非常に映画らしくシンプルなストーリー。
ある意味同時上映のもう一作と同じぐらい現実味のないファンタジーなのだが、必要以上にお涙頂戴方面に盛り上げる感じでもなく、いい意味で説明不足な感じがよかった。
それでも予定調和の絵本を読み聞かせられているような安心感と心地よさがあり、老舗名画座とのしばしのお別れを飾る一作としてはまさに「こういうのでいいんだよ」といいたくなるような絶妙な塩梅にまんまと泣かされてしまった。

主演ティモシー・スポールのヨレヨレの老いぼれ演技があまりに上手く、近年すっかり足元のおぼつかなくなった92歳の義父を見守るようで観ていてハラハラした。

この映画を観たギンレイホールも、最新鋭のシネコンなどと比べたら狭いわ古いわ良心的過ぎるわでこんな都心でよくやっていけるな大丈夫かとハラハラしつつも毎週通っていたわけだが、この主人公と同じくその長い旅路にひとまずの区切りをつけることになった今、目指していた何かは達成できたのだろうかとふと思った。
少なくとも、私を含め映画を愛する常連客にとって、ここは間違いなく #映画館のヒーロー だったはず。
・・なんてことを思いつつ、エンドロールの暗がりで目元を拭っていたこの日のことを、私はきっと忘れない。