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愛と激しさをもってのTenKasSのレビュー・感想・評価

愛と激しさをもって(2022年製作の映画)
5.0
単なる不倫関係において発せられる「私は傷つきました」に、非常に今日的な自身に課せられた属性に基づく主張が織り込まれていた感じがして凄い。コロナ禍映画で登場人物も場面も少なく凄くミニマルなのだが、挟まれるレバノンの情勢や白人優勢思想の話題、黒人とアラブ系は職業で苦労する云々、子供の頃から自由なかった云々、前科者だからカードも持てない云々といった台詞で個人が持つ負の武器になる多層的な断面がチラチラと見えてくる。
更に映像的には、窓やドアたくさん出てくるバルコニー、アクリルのパーテーションそしてスマホの画面越しといった何かを介した(特に上下の)視線の関係がやたらと緊張を生んでいる。コロナ禍で体験した妙な人との距離感をなんとなく思い出す。
目の前のジャンと話しているようで、フランソワからの連絡でスマホが鳴るのを待っているサラは自分さえ見えていない感じ。でもスマホが壊れて自由になれたんじゃないか…?
理性と欲望が様々な距離感でせめぎ合う映画だという印象。
しかしいきなり裸でトイレに座って、「ボクは傷ついた!キミとは寝ないけどここにいる、なんか読む!」とかフランソワが言い出した時は腹抱えて笑った。
ちょっと出てたマティ・ディオップの監督最新作が観たい!
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