てんさん

PLAN 75のてんさんのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.4
超超高齢化社会を迎えた選択的死の権利を75歳以上に与える政府施策PLAN75が実装された社会を描く作品。

今の文化・生活様式に、この仕組みが導入されたらどうなるだろうか?という点がとても丁寧に描かれており、素直に怖い。キャンペーンロゴといい、啓発動画といい、カウンセリングの機能や、炊き出しと同時に行われる屋外申し込みブース、ターゲットとなる高齢者の反応も含めて、この仕組みがあったらきっとこんな感じ!と思わせる演出が随所に施されており、見ていて納得度が高い。

しかし最も怖いのは、なんと言ってもこの映画が作られてしまったことにある。

いままでの日本を支えてきた高齢者を邪魔者扱いし、これからの日本のために死ねと言う。そういった風潮が、この世の中ににあってもおかしくない。そう思わせても仕方のない何かがあるからこそ、この作品は作られたのではないか。

その意味では、この作品が作られたこと自体がすごく残念だ。できれば見たくはなかった作品と言える。

姥捨山という言葉があるように、口減らしのために高齢者を山へ捨てに行くという風習は過去からあった。PLAN75は、それの現代版ともいうべきシステムなのだろうが、経済のために言葉巧みに高齢者を死の選択へ誘うこの仕組みは、やはり今の価値観からすれば、共感はしにくい。

経済的な視点に重きが置かれすぎ、死ぬまで安心して暮らせる社会の構築を放棄してしまったこの世界を見ていると、なんだか怪しい宗教に日本全体が入信してしまったんじゃないか?という違和感さえ覚える。

自由な死を選択できる合法的?なシステムを作るなら、成人以降、年齢制限はいらないだろう。75歳に至らなくとも、そうしたい人はいるはずだ。だが、その世界を作るなら、死を選ばない理由について向き合う仕組みも、同時に必要になるのではないか、とは思う。

ラストにおける主人公の選択が、唯一の救いだ。監督の思惑は、この選択に全て凝縮されている。

そうだ、その意気だ高齢者!オレも間もなくそっち側に行くから、オレたちの力でこのニッポンを大逆転させてやろうぜ。
てんさん

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