湿地で見つかった男性の遺体。被疑者は主人公。果たして彼女は有罪なのか、無罪なのか。
「ザリガニの鳴くところ」は、ラブストーリーの要素をベースに、猜疑をかけられた主人公カイラのストーリーが明かされながら展開していくソフトなミステリーだ。
物語は核心には触れず、疑念を残したまま、観客を最後の最後まで連れていく。この手のお話はいかに核心から観客の目をそらすことができるか?が勝負どころだと思うのだけど、この作品はその辺が抜群にウマい。
人が1人死んでいることを除けば、恋バナを見ているような気しかしない。むしろそこが主体で、人が死んでいることはむしろオマケ。「もう誰が犯人だっていいじゃない。カイラ幸せになって良かったね」そう感じさせて十分なストーリーが紡がれているからこそ、最後の最後の展開に強い納得感を感じる。
中盤の弁護士とのやりとりから、一瞬、犯人の目星はついてしまうけれども、そこはある種の観客に対するサービスみたいなもので、概ねの観客にとってはおそらく見逃される要素。
作り手の視点から見ると、脚本の出来映えがスゴイ。死体があることも主人公のキャラ設定も、舞台も、恋バナの行方も、全てに必然性があってそうなっている。まるで脚本作りのお手本のような設計。見終わった後、あらゆる要素が緻密に組み立ててあることに気づき、感心する。
ミステリーの要素は薄め、かつラブストーリーとしても薄め。市場ウケはしない部類の作品に分類されてはしまうけれど、私はこういうの嫌いじゃないかな。