かじドゥンドゥン

胸騒ぎのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
3.6
デンマーク人一家がイタリアに旅行中、気さくなオランダ人一家と意気投合、お互い同じ年頃の子どもが一人いることもあり、家族ぐるみの付き合いが始まる。(オランダ人一家の息子アーベルは先天的に舌がなく、話せないという。)

休暇をオランダで過ごさないかと誘われ、デンマークから訪ねていった一家(夫ビャアン、妻ルイーセ、娘アウネス)。ところがホストである夫パトリックと妻カリンの振る舞いには「どこか」不可解なところがあり、無作法で、不愉快で、常軌を逸している。この微妙な違和感の積み重ねにたまりかねたルイーセらは、夜陰に乗じて帰ろうとするが、結局はパトリックらに言い含められて、滞在を延す。そしていったんはホスト夫妻の態度もあらためられたかと思いきや、やはり息子に対する異常な厳しさ、そしてよその子であるはずのアウネスへの行き過ぎた干渉など、ルイーセらには耐えがたい齟齬がやまない。

ある晩、みなが寝静まった邸をうろついていたビャアンは、離れの2階に保管された数々の旅行荷物、そして家族写真を発見する。そして少年アーベルが殺害されてプールに浮いている。つまり、パトリックらは旅行先で似たような構成の家族に近寄ると、こうして我が家に招待し、夫妻を殺め、その時点での「我が子」も殺め、殺害した夫婦の子どもをあらたに自分のものにする(ただし舌を切って、真実を語れないようにして)という蛮行を繰り返しているらしい。仰天したビャアンは妻娘をたたき起こして脱走するが、途中で車がスタックし、パトリックらに追いつかれる。娘は舌を切られて拉致され、夫妻は全裸にされた上で石を投げつけられて息絶える。

全体を見終えたあとで細部を思い返すと、さまざまな「違和感」が芋づる式に出てくるが、それは必ずしもオランダ人夫妻に関するものに限らない。つまり、一見円満に見えたデンマーク人一家の中にも微妙な摩擦や欺瞞が潜んでいたことが分かってくる。パトリックらは、そのわずかな隙につけ込んだわけで、最後が投石の刑だというのも、(少なくとも狂人夫婦からすれば)然るべき罰を下したということだろう。

英題は"speak no evil"。"Hear no evil, see no evil, speak no evil"が「見ざる、言わざる、聞かざる」なので、英題を直訳すれば、「余計なこと(悪口)は言うなかれ」ということだろう。つまりひとまずは、拉致され、舌を切られ、入れ替え制で狂人夫妻の子とされる者たちに向けたものか。邦題の「胸騒ぎ」は、予告編の構成ともあいまって、本作品の一番スリリングな部分の雰囲気を適確に表わしていて、宣伝効果もかなりあったと思うが、作品の内容前半にのみ適合したもので、オチや全体とは噛み合っていない。よって、邦題に引きずられると、目の付け所がズレて、全体の解釈に行き詰まるのではないかという気がする。