ゆきまる

ザ・ホエールのゆきまるのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
5.0
自分の人生を誠実に生きることとは?泥臭くて切ない、一人の男の人生最後の贖罪の話。

大きく揺さぶられ形にならない、ままならない感情を鑑賞後一か月くらいずっと抱えていた。
フロリアンゼレールが好きならこれもハマる可能性高し。
画面いっぱいに広がる主人公の超肥満体と、贖罪というテーマがダブルミーニングで重い。


















自分の信念を貫いた行動や決断が、周囲を裏切り、傷つけることになっても、自分の人生は全うできたことになるのだろうか?
主人公チャーリーが、恥や罪悪感で背を向けてきた自身の過ちに、死までの五日間をかけて、向き合っていく様を5人の登場人物と、完全室内劇で描く。
ミニマルな舞台設定ながら、繰り広げられる濃厚な人間ドラマが見所。


肥満で部屋から出られないチャーリーを代わる代わる訪ねに来る4人の訪問者。それぞれがチャーリーに怒り、泣き、嘆き、彼の過ちを問いただし信念を激しく揺さぶる。
最初は諦観を決め込んでいたチャーリーが、最後には捨て身の覚悟で娘に向き合い、彼女への思いが溢れ出し畳み掛けるラストに胸が激しく衝かれる。チャーリーというひとりの個人の人生が、娘の人生をきちんと内包し、また彼女に受容されることで、初めて赦しを得られ、救済されたのだと解釈した。
伏線回収(いつもお守りの呪文のように唱えていたのは娘のエッセイの一部だった)がここでなされたのも、最上のカタルシスを生んでいる。巧い。

寂しさと孤独の描写に胸が抉られる。
訪問者がぴしゃりと閉めたドアを見つめるチャーリーの悲しい視線、目も覆いたくなる自暴自棄の過食のシーン、端々に溢れる亡きパートナーへの思い。

感情の襞をなでるような、ブレンダンフレイザーの繊細で鬼気迫る演技が圧巻。す ご い!!!!

超肥満で同性愛者というマイノリティのために、社会からマージナライズドされ、孤立するチャーリーのような人が、アメリカにはどれだけいるのだろう?と考えるとまた切なくなる。

国民皆保険がある日本のような国であれば、娘の未来と自身の健康問題を極端なまでに天秤にかけなくてよかったのに。

アメリカ社会の闇を覗く映画でもある。
ゆきまる

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