ヒナウラ

ザ・ホエールのヒナウラのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

恋人アランを失ったチャーリーはその後引きこもり、食べることでしか哀しみを癒せなかった。その成れの果ての体型に対して、自意識過剰で劣等感を抱いている。オンライン授業で自身の姿を、あえて非公開にしていると説明するのではなく、カメラが壊れて映すことができないとしたり、宅配ピザの配達人が去りゆく姿をわざわざ確認しているショットに、彼の心情が現れている。つまり彼は、見る、または見られることに関して、とても敏感で、とくに見られることに抵抗を感じている。

やがて物語が進むにつれて、訪問看護師のリズをはじめ、娘エリーや宣教師トーマス、元妻メアリーとの交流、はたまた窓のそばまでやってくる鳥からも心の機微を感じ取り、これまで殻に閉じこもってきた日々から、徐々に自分自身を開こうとしていく。もっとも、鍵をかけていた恋人の部屋を開けるのは、最たるおこないである。もちろん紆余曲折はあるものの、自分に正直な気持ちをさらけ出していき、たとえ死を意味していたとしても、内から外へと、開かれた世界へ歩みを進めていく。


その過程で、ノートパソコンを閉じる行為に注目してみたい。劇中、6度見られる。

まずは月曜日の冒頭。突然入ってきた宣教師のトーマスに、愛を交わす動画を目撃されたものの、もうそれ以上見られまいとノートパソコンを閉じる描写がある。

また翌火曜日、自身の病名と血圧を調べた直後でも彼はノートパソコンを閉じる。
両日共通して、シャットアウト、すなわち遮断する行為のように見える。たしかに火曜日でのその後、現実を直視したくないかのように、引き出しにあったスナックバーのようなものを口にしたりする。
けれども、まもなくして現実を受け止めた彼は、これまで会うことを許されていなかった娘に連絡を取る。要するに、文字通りの閉じこもりを象徴するかのようなパソコンを閉じる行為が、ここでは次第に開かれていくきっかけにもなっている。

その後、娘エリーに大学のオンライン講座のホームページを見せ、自分の職を明かしたあとも画面を閉じるが、ここでは交流を続けるきっかけのひとつとしての役割を果たしている。

パソコンを触るのは、チャーリーだけではない。エリーのFacebookを開き、孤独な彼女を心配するチャーリーを見て、パソコンを閉じるリズ。リズはチャーリーに、今娘エリーに会うのは良くないと助言する。

あるいは、8年ぶりに2人きりになった元妻メアリーがチャーリーのパソコンから娘エリーのFacebookを開き、自分たちが世間にさらけ出されていると口にする。その後メアリーとのやりとりの中で、娘に対する見解のちがいと、チャーリーの娘への接なる想いを吐露することになる。

最後は、宅配ピザの配達人に自身の姿を見られたショックから、気が狂ったようにあらゆるものを食べまくっている最中、オンライン講座の生徒たちにメッセージを送ったあとのことだ。「自分に正直になれ」という自ら記したメッセージと葛藤しているかのような様子が伺える。

そして、金曜日。彼はオンライン講座で自分をカメラに映し、公開したのち、パソコンそのものを放り投げ、破壊する。
チャーリーにとって、パソコンを閉じる行為は自分に正直になるための手段だったのであり、少しずつ殻を破り、自身を受け入れたからこそ、その役目を終えるかのように、投げ飛ばしたのではないだろうか。


この映画は、他にもいろいろ気になることがあった。

・配達人以外に、エリーがエッセイを持って出ていくときもチャーリーの見た目のショット

・その前に去って行ったリズには、目線で追うのを映したショットのみ

・日々の天気の変化

・チャーリーの大きさを物語るかのような高低差のある切り返し

・ごめんなさいとくりかえし謝るチャーリー

・スタンダード画面

・金曜日に現れたリズとエリーは、ともに髪をおろしている


たしかによく考えられた映画ではあるが、思わず身を乗り出すようなショットがなかったのが、今ひとつ心に刺さらなかったところなのかもしれない。
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