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雄獅少年/ライオン少年のしののレビュー・感想・評価

雄獅少年/ライオン少年(2021年製作の映画)
4.3
王道のスポ根モノをベースにしつつ、芸術の意義についての話にもなっている射程の広さにたまげた。厳しい時代にあって、なぜ我々は「役に立たない」アニメーションを観に行くのか。いろんな意味で観客席をも巻き込んでくるクライマックスに圧倒された。

「はぐれ者がチームを結成して勝利を掴む」という清々しいほど王道なプロットであり、掴み時点で大枠の展開は読める。所々ほぼ『少林サッカー』まんまなディテールや展開があったりするし。しかし、それをデフォルメの効いた、過剰にメリハリのある人物の動きとカメラワーク、カッティングの面白さで描くので、全編通してコミカルに面白く観れる。まずこれが偉い。

ただ、その「読めた展開」になるまでに、こちらの想定よりかなり手間取るのが新鮮であり、一筋縄ではいかないところ。わりと展開に容赦がない。奮起するも出鼻を挫かれる……みたいな流れが何度も続く。この時点で「あれ? 単なる成り上がりものではないぞ」となる。

これはどういうことか。『少林サッカー』と比べると分かりやすい。あちらはスポ根を通じて独自文化を描く話だが、本作は逆に、独自文化を通じてスポ根を描いている。「人生こそ獅子舞のようなもの」という言葉の通り、文化芸術それ自体が、人が生きていくことと不可分であることを描いているのだ。

ここで注目すべきは、「獅子舞が何の役に立つのか?」という即物的な問いが一貫して強調されている点だ。これに対する回答は「獅子舞がいかに役に立つか」ではない。だから、主人公らが掴むのは栄誉や富や権威ではなく、もはや勝利でもない。生きていく意志そのものなのだ。つまり精神性はむしろ『ロッキー』に近い。勝利を収めるかどうかではなく、勝負をするかどうか、その意志を貫けるかが焦点となる。単なる成り上がりものになっていないのはそのためだ。中盤のツイスト展開はそれをさらに強調する。主人公の障壁は「強敵」ではなく、「現実」なのだ。

こうして自然に、むしろスポ根のドラマに必要な要素としてリアルな社会描写を盛り込んでいるのが非常に巧みだ。芸術では解決できない現実の問題をここで描くからこそ、むしろクライマックスの試合が「文化芸術に何ができるか」の回答として雄弁に提示される。

そしてそれは言うまでもなく、本作というアニメーションの存在意義とも重なる。こんなに王道なのに自分でも驚くほどクライマックスの試合で熱くなってしまったのは、そういうことなんだと思う。演出が良いのはもちろん、劇中で試合を観戦する観客と、この映画を鑑賞する観客としての体験がシンクロするのだ。

そしてミドルクレジットがまた良い。主人公は再び辛く厳しい現実に帰るのだが、そこでは即物的なものではない何かを持ち帰っている。まさに映画館を出た後の我々と同じだ。そこからのエンドロールで流れる歌詞のダメ押しで泣く。本作がどんな人に捧げられた物語だったのかが分かる。

正直、人物の動きというか芝居がチャカチャカしているのは慣れるのに時間がかかったし、挿入歌をガンガン鳴らすモンタージュも結構しつこく感じた。もう少しキャラクターの表情でグッとこさせる芝居ができると、いよいよ3DCGアニメとして最強になるのではないかと思う。
しの

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