しの

ARGYLLE/アーガイルのしののレビュー・感想・評価

ARGYLLE/アーガイル(2024年製作の映画)
2.8
マシュー・ヴォーン脚本じゃないからか、悪趣味さやキャラクターの扱いの酷さはなくなり、純粋におふざけを楽しめるテイストにはなった。しかし、ある意味「フリ」である前半があまり効いておらず、そのままツイストだらけの後半に突入するため内容に興味が持てないままだった。

前半が特にツラい。せっかく「書いたことが本当に…!」という面白さを提示できるはずの設定なのに、そこを意外なほど見せてくれない。かといってキャラクター描写に特筆すべきものもなく、たとえば自分のイメージと全然違うスパイに対して小説家が小言をいうとか、そういう凸凹コンビ的な掛け合いがあればいいのにそれもない。こういった描写を前半で面白く積み上げていれば、後半で「自身の過去と向き合わずに他者にそれを押し付けるだけでいいのか?」みたいなドラマを展開できると思うのだが、それ抜きでひたすらツイストを重ねまくるだけなので、どうでもいいよと思ってしまう。話のベースがないのだ。

この話は、「人は生き方を選べるのだ」という主張にこそ希望があるはずだ。実際、この辺りのドラマをやろうとした痕跡はある。しかしこれが全く機能していない。たとえば“心臓から5cm“のくだりは、元を辿ればあの人が教えてくれた情報というだけだし、スケートにしても元々上手だったというだけ。つまり、小説家の経験があってこそ今の自分がある! という話になっていない。クライマックスも、愛する人を救えるのか(=薄暗い過去という支配から逃れられるか)という問いに対し、第二の人生で学んだことによって回答を出すことが必須だと思うのだが、助けられました、じゃダメだろう。

この辺りのドラマがちゃんと機能したうえで終盤のおふざけ全開のアクションが展開されれば、マシュー・ヴォーン印の鮮烈なビジュアルと、切実なドラマとがシンクロした素晴らしい作品になったはずで、そういう「真面目に不真面目」な作品は自分の好みなだけに、悉くツボを外された印象だった。

極め付けは、ふざけたあのオチからのミドルクレジットのあれで、もうどうでも良さがピークに達した。メタフィクションの良さってそういうことじゃないだろう。ただ引っ掻き回して混乱させるだけになっている。139分引っ掻き回されて、悪い意味で疲れる。これなら最初から素直にアーガイルで一本作って欲しかった。
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