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ジェイコブと海の怪物のRenのレビュー・感想・評価

ジェイコブと海の怪物(2022年製作の映画)
2.0
今年度アカデミー長編アニメ賞ノミネート作品。海や波、布のはためきなどCG表現はとても良いものの、話の作りはかなりダメだと思った。戦争や対立に関して深い思想のものが観られると期待した自分も悪いけど、単に子ども向け勧善懲悪だったのが残念。

子どもを聖なるものとして描きすぎ。メイジーがレッドと心を通わせられたことに、「彼女が戦う大人ではなく子どもだったから」以上の理由が無い。

一人の主張が多勢の思想を安易に変えられると信じすぎ。長きに渡って戦いを繰り広げてきた歴史の中で育ってきた民衆が、本を読んで歴史を学んだくらいの少女の1分のスピーチに感化されて掌を返すわけがないでしょう。

今作を「憎しみや争いそのものが幻想かもしれない、何も生まない対立はもうやめよう」という和解・反戦の物語としてとるには以上二点が不誠実すぎて、どう受け取ったら良いのか分からなかった。

多くの人が言うように、『ヒックとドラゴン』、もしくは『アバター』にも似た相容れない(と思われていた)二者の交流の物語になっていく。
結局さらなる根深い対立問題を残して終わった『アバター』も大概だったけど、今作も結局その後のことは放り投げて「私の役割はここでおしまいです」とでも言いたげな幕引きが、ピュアな奴らが悪い奴らを一旦懲らしめて終わる単純な勧善懲悪ものの様相を強めている。あの場が静まっただけで、実は病理そのものは消えていない。

作劇としても、前述した通り波の表現が凄まじかったので、海が暴力的に荒れ狂う冒頭のアクションがピークになってしまっていた。そこを超えるシーンが無い。
台詞を減らしても雄弁に語れるだけのポテンシャルを秘めた映像美であったはずなのに、後半へ行くにつれ説明台詞が多くなっていってしまったのもアクションスペクタクル的側面の興奮を薄めていった。怪物と人民の攻防を「戦争」のメタファーとしていたはずなのに、最後「"戦争" はやめよう!」って言ってなかった?メッセージを隠せなくなっちゃった?(最初から戦争と呼んでいたらごめんなさい)

アバンタイトルに漂う怖さは良かった。自分が海を嫌いな理由があそこに詰まっている。海洋恐怖症の方は注意して観るべし。褒める点はここと冒頭のアクションのみ。あとは全部受けつけられなかった。

その他、
○ アバンタイトルで見せるべきはジェイコブの少年時代もそうだけど、それよりメイジーの両親では?
○ ジェイコブの視点から怪物と触れ合っていく子どもを見る構成なので、冒頭のメイジー脱走シーンがヘンに浮いている気がした。あそこは最悪無くてもよくないかと感じてしまう。
○ レッドのキャラデザ、もう少しどうにかなったと思う。冒頭の緑のやつのほうが伝説感あったぞ。『ヒックとドラゴン』のトゥースを微妙に意識しているのかな....?
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