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池袋母子死亡事故 「約束」から3年のTSのレビュー・感想・評価

4.0
【安全な車社会を目指して】85点
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監督:守田哲
製作国:日本
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:78分
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 もうあれから4年がたつのか。「上級国民」や「高齢者ドライバー問題」などのワードが一気に有名となった痛ましい事故。今作は事故から3年目となった去年に撮られたドキュメンタリーであり、遺された松永拓也さんが悲しみの中、安全な車社会を目指していく様子を記録したものです。正直なところ点数化すべき代物ではないと思うのですが一応つけさせてもらいました。

 2019年4月19日に発生した「東池袋自動車暴走死傷事故」。いつものように外に出ていた松永さんの妻と娘が、池袋の横断歩道で時速約100kmも出していたプリウス車にはねられて死亡するという、大変悲しい事故です。加害者は齢90に近い飯塚という高齢者だったのですが、すぐ逮捕されないだの、本人があまり反省しないだの、社会からのバッシングは凄まじいものとなりました。プリウス=高齢者が乗る車という印象もついてしまい、いつしか巷ではプリウスミサイルなどという俗語すら登場したくらいです。

 実際の監視カメラの映像が映されますが、見てられない。もちろんはねられる直前で止めはしますが、おそらくはねられた映像も残っており、松永さんは幾度となくそれを確認したことでしょう。なんでこんなことになるのか。二人は青信号の状態の中横断しただけなのに、そこに猛スピードで進入してくる車。あと数秒でも遅れていたら、と思うと本当に不運の極みとしか言いようがなく、こんな事実を見せつけられたらしばらく動けなくなるでしょう。

 当たり前ですが、松永さんの精神的ショックは甚大であり悲しみが続いたと思います。それでも松永さんは何故そのような事故が起きたのか、そして加害者の話を聞いて再発防止に努めようと努力していくのです。とんでもない人です。自分だったら恨みに恨んでその人をどうするかわからないでしょう。もちろん、松永さんにもその気持ちは多分にあったと思いますが、それを実行しても何の解決にもならない、亡くなった二人がそれを望んでいるのか、といろんな思いが恐らくあり押し殺したのだと思います。

 また、この悲惨な事故により、加害者の飯塚容疑者が非難されるのは仕方ないとして、その親族や関係者にまで非難が及ぶのは論点がずれてきているため避けなければいけない課題です。ニュースなどをみて、どうみても100対0で被害者側の気持ちになってしまう分、同情の余地はないのですが、それでも加害者側の親族や関係者に責任はおえません。法や人間社会の難しさを静かに伝えている事例だなと感じました。

 あれから4年、果たして社会は変わったのでしょうか。交通事故の原因の全てを高齢者の運転にすることはできませんが、やはり危険な運転であることは間違いありません。あおり運転、居眠り運転といい、車を運転するにはそれなりのリスクがあります。理不尽な社会なのですからこの先どれだけ尽力しても交通事故がゼロになることは残念ながらないでしょう。しかし、こうやって今でもずっと安全な車社会を目指して頑張っている人がいるということを忘れてはなりません。改めて、ご冥福をお祈りします。
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