しょっさん

MEN 同じ顔の男たちのしょっさんのネタバレレビュー・内容・結末

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

衝撃的すぎた。一人で観に行ってよかった。

自殺した夫ジェームスとの傷心に、カントリーハウスを選択したハーパー。同じ顔をする男たちに憤りを感じさせられる上、最終的には家にまでその手が及んで、どうなるかというお話。

わけわからない感覚で進んでいくホラーとして、途中までは帰りたくなるくらい嫌な感じと恐怖への感覚はすごかった。最後の急変で、すんとなる感じと、何をどう受け止めたらいいのか、訳のわからない感覚に陥って、ひたすら考え込んでしまう結末だった。まず、わけがわからない。男性非難に対して、男性である私が意味が理解できないのか、この話を冷静に受け止めきれないだけなのか、それすらもわからないくらいにさっぱりわからない。

仕方ないので、解説を読んできた。が、どれも受け入れがたい。

ハーパーは、回想の中で、ジェームズからの身体的(1度叩かれた)、精神的(継続的な恐怖と、自殺をするという脅迫が断続的に続いたんだろう)な被害を受けていたことがわかる。しかし、なぜジェームズがそうなってしまったのかに関しての原因は問いただされていない。そして、贖罪の場が与えられないまま、ジェームズは上のフロアから、自室への侵入を試みてスリップしたのか、それとも見せしめで自殺したのか、ともかく落下して死んでしまった。これが描かれている、そして説明がなされている事実。

カントリーハウスへ来てから、ジェフをはじめ同じ顔のした男たちが立て続けに出てくることに関しての説明もないし、ハーパーがそれに気がついている事実もない。解説者の多くが、これは比喩であって、ハーパーから見た時の男はすべて同じに見えているという解釈があるが、それだとジェームズだけは異なる存在であることが明示的になるので、その点を解析しないといけない。邦題では「同じ顔の〜」と来るので意識してしまうが、原題は「MEN」である。いわゆる複数の男という意味しかない。"man"は他に夫であることも示すケースもあるし、「人」や「組織」を言い換えて使うケースもあるが、夫と複数の男程度の関係性しか見いだせない。英語nativeじゃないので、この辺の含みがわからないのが残念です。

裸の男は、どうもグリーンマン(ケルト神話)を意識しているようであるが、シーンの前半でも抽象的に描かれる「森」と関係するのか、なぜそのような形式であるかは、解釈により異なるので、事実不明。

この村で出てくるのは、ハーパー以外男しかいない。どいつもこいつもがさつであり、一言多いし、男性上位的な発言も多い。神父ですら。

そして、たんぽぽ。「苦痛を癒やす」という意味合いを持ちながら「単為生殖」であることが明示するのだろうか展開が起きる。たんぽぽの綿毛を一つ吸ってからのハーパーはある種、穏やかで恐怖を感じていないような立ち居振る舞いをしているケースが多い。そして、現れる男はジェームズと同じ傷を持ち(傷をつけたというかつけられた)、様々な同じ顔の男たちを産む。男性であるにもかかわらず女性器を持ち、そこから生まれてくるし、その位置も変わる。なんなら最後のジェームズは口から出てきた。どういうことだ。ジェームズだけは違うとでも言いたげなのだろう。

死んだジェームズと向き合い、ハーパーと会話して出てくるジェームズの期待は「愛」だという。ハーパーの愛を感じえない、期待できなかったから、その愛を欲するための行動だったと、最後に一言でまとめているように見える。

翌朝、友人が到着したときに、抜け殻も遺体も見当たらないものの、血の跡は残っている。残っているということは、何らかの事実はそこにあったのだろうと思えるが、ホラー映画に事実を期待するのはちょっと違うかもしれないので、それは置いとこう。

最後のシーンで、ハーパーは穏やかな笑みを友人に向けて終わる。たしかこのとき、葉っぱだか、たんぽぽいじってた気がするけど。

最後のシーンでは、斧も持っていないので、すべては終わった状況であることだけは事実として想定できる。とすると、あのジェームズはなんだったのか。抜け殻はどこへ行ったのか。血痕は残っているじゃないか。

夫婦の間で、というかジェームズがそうなってしまった原因が結局わからないままなのだが、ジェームズは「愛を欲していた」事実から鑑みてしまうと、ハーパーはろくでもない女だったという見方もできなくもない。ただ、一般的にこの流れは、「愛」で全てを表明する男のわがままというか、男性上位になれないことに対する、女性からの男性非難とも読み取れもする。

こうやってまとめていくと、女→男でも、男→女への皮肉もいずれも考えついてしまう結果になり、この映画の意味合いと、急激なグロ転換によるホラーとしての恐怖がすんとなくなってしまう現象の折り合いがつかない。

長々と書いたけど、これは多分あれだ、すげーやばい衝撃を感じ、直後は非常に興奮したのだけど、ホラーとしては、駄作だった。フォークホラーとして、それをベースに何かを伝えたい作品だったとしたら、難しすぎた。

要するにイマイチだったし、万人には到底勧められない。
けど、衝撃的な内容を目の当たりにしたいなら、見ておいて損はないと思う。

あと、ホラーに論理的な事実解釈を求めてはいけない。