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LOVE LIFEのRenのレビュー・感想・評価

LOVE LIFE(2022年製作の映画)
4.0
深田晃司作品を初鑑賞。かなりプレゼンが難しい映画だけど、それ故の傑作。こういう、ファスト映画やあらすじ紹介では絶対に理解できないだろう映画に出会うために映画を観るんだ、と思えた。

人間が徹底してグレーなものとして描かれている。感情が昂って他者を罵倒してしまった直後にしっかり謝罪したり、逆に人当たりの良さそうな人が次のシーンでは心に引っ掛かるようなイヤなことを言っていたりする。世の中は善でも悪でもない人がほとんどで、そういった意味でのリアルや正しさがあった。
登場人物全員が、「こういう人間です」と一文で説明できない。最もテンプレート化してしまいそうなパク・シンジ(砂田アトム)ですら、劇中では「ろう者」とは説明されない。誰かをラベリングすることを徹底して避け続ける姿勢が素晴らしい。

喪失を経て、自分が誰かを守らなければいけないと決める妙子(木村文乃)。相手を、自分が守るべき弱者であるとラベリングした結果、やはり思い描いていた結末から遠ざかる。対話やコミュニケーション、他者の真意に寄り添おうとすることの映画だった。

ある悲劇を入り口にして、感情が、人間関係が、オセロのようにパタパタと二転三転していく不安定で不確かな人生のドラマ。
基本的には「人生を共有していようが(夫婦だろうが家族だろうが)、完全に分かりあうことなどできない」現実が根底にありながら、「それでも互いに目線を合わせて歩み寄ることはできるかもしれない」という光みたいなものを提示するヒューマンドラマになっている。サーチライトのようにバラバラに虚空を見つめる両者の目線がバチッと重なる瞬間を “LOVE LIFE“ と名付けた豊かさに拍手を送りたい。

手話コミュニケーションはもちろんのこと、お風呂に響く音、葬式の闖入者、山崎(山崎紘菜)のフレームインなど、映画ならではのハッと掴まれるシーンもたくさんあり映像作品として格式高くまとまっていた印象がある。
パーティー準備⇔逃亡する女性。カラオケ⇔悲劇的な事故。裏切り⇔ポップソング。明と暗の多層的なレイヤーが存在し続ける123分の人生映画。プレゼンで魅力を伝えるのはとても難しい映画なので、観てください。

その他、
○ 序盤の、妙子が息子とのオセロで “待った“ をかけて打ち直す場面が後半に効いてくる。人生に “待った“ はかけられない。一度石がひっくり返ってしまったら、そのままゲームは続行されるのが人生だということの強烈な示唆。あの事故の瞬間にはもう戻れない。
○ ポスターにもなっているシーンが強く印象に残る。自分は『母なる証明』をふと思い出した。悲劇の中の喜劇的演出。あの瞬間に妙子の物語は一旦閉じ、再スタートへの諦め、希望、生まれ変わりを示唆するような美しくかつ震えたシーン。
○ 本当のラストシーンの二人の絶妙な距離感。分かり合えないけど歩み寄っていく片鱗だけを見せて引いていく。
○『ドライブ・マイ・カー』のように蛇行し、『寝ても覚めても』に似た着地をする。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が好きな方もぜひ。
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