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セールス・ガールの考現学/セールス・ガールのakrutmのレビュー・感想・評価

4.1
バナナの皮に滑って骨折した友人に頼まれて、アダルトショップ店員のバイトを臨時で引き受けた原子力工学を学ぶ地味な女子大生が、アダルトショップのオーナー女性との交流を通じて成長していく姿を描いた、センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督のドラマ映画。主人公の女性大生を演じたのは、オーディションで選ばれて本作でデビューしたバヤルツェツェグ・バヤルジャルガル。一方のアダルトショップのオーナーを演じているのは、モンゴルでは有名な俳優のエンフトール・オィドブジャムツ。

とても珍しいモンゴルの映画であるが、モンゴルに特有の内容というわけではないので、モンゴルらしさ(とは何かも曖昧だが)を期待すると、ちょっと違うという感想になるだろう。映画の舞台となっているモンゴルの首都ウランバートルは、普通に都会。内容的にもモンゴルでなくても成立するストーリーで、両親に従順で自分の殻に閉じこもっている女性大生・サロールがアダルトショップのオーナー女性・カティアとの交流を通じて、少しづつ自分の殻を破っていくというスタンダードな成長譚である。

もちろんここで言う「成長」は、ちょっとだけセクシャルな意味での成長も描かれるけれど、本人の生き方に関する成長である。例えば、両親の言うなりに大学では原子力工学(なぜ原子力工学なんだ?)を専攻しているが、実際には絵を描くのが好きで、絵を学びたいと思っている。本作では、そんな消極的なサロールが、カティアと接して彼女の言葉を聞いているうちに外見も内面も変化していく様子を、印象的に映し出している。

一方で、カティアのほうも、ある意味で自分の殻(というか、居心地の良い現状)に閉じこもっていて、心の奥底に鬱屈を抱えている。そんな彼女自身も、サロールの言動によって変わっていくのである。そういう意味では、祖母と孫ほどの年齢差のある二人がお互いに刺激を受けながら変わっていくという、二人の成長譚とも言えるかもしれない。

それから印象的なのは、映画の途中に挿入されるミュージックビデオっぽいシーンの数々。特に印象に残ったのが、ヒロインのサロールがバスの中でヘッドホンをつけて音楽を聞くシーン。バスの後方の席で一緒に歌を口ずさむ、ヒロインとは全く関係ない男性がかすかに映るのだが、この男性こそが本作の音楽を担当している、モンゴルだけではなく世界的に活躍しているミュージシャンの Magnolian である。このシーンよりも後ろでは、もっと堂々と出てくる。ピンク・フロイドのLPジャケットも懐かしい。

サロールのボーイフレンドとして、無気力で自分が何をしたいのかもわからない男性が出てくるが、監督によるとこの男性が現在のモンゴルの若者気質を反映したキャラクターらしい。でも、天井までとは、若いなあ。
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