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風ふたゝびのakrutmのレビュー・感想・評価

風ふたゝび(1952年製作の映画)
3.4
若くして結婚に失敗して叔父の家に出戻っている女性が、大学教授の父が上京中に倒れたことをきっかけに出会った二人の男性と繰り広げる恋愛模様を描いた永井龍男の同名新聞小説を、豊田四郎監督が映画化した作品。文芸映画の巨匠と呼ばれ、数々の名作を生み出した豊田四郎監督であるが、1953年に発表した『雁』までの戦後しばらくは不作だったと言われていて、そうだとすると本映画もちょうどこの時期に当たる。

確かに映画としては平凡である。主人公の香菜江が、父親の弟子で研究者(復員後は市場で働いている)のイケメン男性の宮下と出会い、一目で好きになってしまう。宮下のほうも香菜江のことが気になり始めたころに、実業家(どんな仕事をしているのかはよくわからないが)の中年男性・道原から、彼女が死んだ前妻に瓜二つということで好意を持たれる。という、典型的なメロドラマであり、結末も予想どおりである。戦後の当時は、このようなメロドラマが新聞の連載小説として好まれたのだろう。

とすると、やはり本映画の見どころは、主人公の香菜江を演じる原節子ということになろうか。(もちろん、宮下を演じた、いつまで経っても若々しい青春スターが似合う池部良もいいのだが。)前年は小津の『麦秋』や成瀬の『めし』などのヒット作(黒澤の『白痴』はヒットしなかった)に恵まれ、女優として高く評価された頃である。本作でもいろいろな表情を見せる彼女を楽しむことができるが、やはり小津や成瀬の作品と比べると、原節子自身の演技もごく平凡と言えるであろう。

なお、香菜江が働くことになる「ラジオ東京」というラジオ局は、今のTBSラジオの前身である。
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