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別れる決心のSPNminacoのレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
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刑事と被疑者、眠れない男と眠らない女。すぐにシンクロする視線と動作。青く深いエメラルド色の海と山、原発とよく似た形の岩山。翻訳機を介した韓国語と中国語、お互いの声や文字は、手がかりを残しては消え、読み解く謎を与え、手錠を外す鍵を捜す。なるほど「別れる決心」なのは納得。この男と女は初めから一対なのだから。
殺人事件を待つ刑事ヘジュンにソレは死体と眠りを与え、ヘジュンは高い所や霧の町の迷宮の奥深くへと夢遊病者のように入り込む。ソレが翻訳機に話す中国語はSiriに話しかけるのに似て、何かを呼び出す合図みたいだった。彼女を追うことは甘く穏やかな平穏、目を開けたまま見る夢。蟻が這い回る死者の目はヘジュンの目で、TVのメロドラマをうっとり見続けるソレの目もそう。ある意味、隔てた所から部分的に観察するだけの相棒刑事以上に息の合った関係。水の中やカメラを通したソレとヘジュンは鏡の中にいて、他者の視点は介入できない。
過去や秘密を持ち如何にも自覚的なファムファタルを通して、実はソレにとってのファムオム=へジュンを見る映画に思えた。料理もしてケアもする無自覚で無防備なヘジュン。つまるところ、中年の危機を迎えた彼の物語かもしれない。
結局2人は別れられない。ソレが「未解決事件」であることこそがヘジュンの幸福だ。海辺で捜査動員を呼びかけるヘジュンはそれを手に入れた。閉じ込められて永遠に醒めない夢を。
凝りに凝りまくった色彩と構図、マットな黒を効かせた陰影、ジャンプカットを多用したスピーディな編集がケレン味過剰で、笑ってしまう。『めまい』や『裏窓』や『太陽がいっぱい』やメロドラマ&ノワール様式美を記号的になぞりつつ、外してもいく。さすがに盛り過ぎ長過ぎフルコースで食傷しちゃったけど、やけに豪華な弁当もなんちゃって中国料理も、出てくる食べ物はどれも美味そう。ていうかそこも含めて、これパク・チャヌクの『ツィゴイネルワイゼン』という気がしてきた。なんとなく。
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