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別れる決心のKtoのレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
5.0
【ひとこと】
洗練された大人の恋愛を描く傑作韓国ノワール

【感想】
●”大人の恋愛もの”として最高品質と思う
「オールドボーイ」や「お嬢さん」でエクストリームな表現を追求してきたパクチャヌク監督が、刑事と容疑者という比較的シンプルな設定を採用している。その分、研ぎ澄まされた手腕が終始冴え渡っており、ジレンマを抱える二人の関係を非常にエレガントに描いている。

●嫌味のない、デキる男
最年少で出世街道を歩み、同じくインテリジェントな妻とも順調に過ごしている。
週末婚ながら夫婦仲も問題なさそう。食卓でもにこやかな会話を交わしている。
韓国という家父長制が強い文化だけど、毎回自分が美味しい料理を振る舞う、明らかにデキる男。

被疑者でさえ、取調べ中の飯の後に歯磨きをさせるくらいの清潔感と周到さ。

●周到で、デキる男だからこそ、ごく小さい変化が重大な意味を持つ
いつも冷静なデキ男だからこそ、太ももの傷口を見せるシーンの静かな甘美さや、後輩には「安い物を食え」というのに、取り調べでは質の良さそうな出前寿司を頼んでしまう行為が重大となる(妻に対しては「寿司は選ばないと」と言っているから高いもののはず)。

張り込みも、早々にソレに感づかれるし、捜査としては三流になる。
明け方に、車の外からソレにgood morningと言われた後、出社するヘジュンもgood morningと言っている。
恋愛が始まったばかりの高校生みたいな、相手の行為が自然と乗り移ってしまう状況になってる。

●古典的な設定を、徹底的に抑制の効いた方法でアップデートしている
被疑者と刑事が、疑う/疑われる関係を越え、禁断の恋愛感情を抱くという設定自体は、小説や映画で繰り返し扱われてきた設定であり、目新しさは少ない。にも関わらず、なぜここまで満足度が高く面白い映画になっているのか。

乱暴に表現するなら、エリート刑事が堕落するファムファタール系の韓国ノワールとも言えるけど、そういったジャンル言説ではこの繊細で複雑なプロットは説明できないと思う。

●主人公が、全く嫌味のない、デキる男
最年少で出世街道を歩み、同じくインテリジェントな妻とも順調に過ごしている。
週末婚ながら夫婦仲も問題なさそう。食卓でもにこやかな会話を交わしている。
韓国という家父長制が強い文化だけど、毎回自分が美味しい料理を振る舞う、明らかにデキる男。

被疑者でさえ、取調べ中の飯の後に歯磨きをさせるくらいの清潔感と周到さ。

●周到で、デキる男だからこそ、ごく小さい変化が重大な意味を持つ
いつも冷静なデキ男だからこそ、太ももの傷口を見せるシーンの静かな甘美さや、後輩には「安い物を食え」というのに、取り調べでは質の良さそうな出前寿司を頼んでしまう行為が重大となる(妻に対しては「寿司は選ばないと」と言っているから高いもののはず)。

張り込みも、早々にソレに感づかれるし、捜査としては三流になる。
明け方に、車の外からソレにgood morningと言われた後、出社するヘジュンもgood morningと言っている。
恋愛が始まったばかりの高校生みたいな、相手の行為が自然と乗り移ってしまう状況になってる。

中国語のドリルや、ソレの写真を捨てるのを止めるなど、徐々に相手への静かな関心が明確な意図を持った行為に変化してくる。
そして互いに明言は避けてながら、リップクリームの共有や、違和感なくベッドルームに二人で入るなど、緩やかに二人の関係が強固になっていく。演歌を聴くようにもなるし…。

一方で、妻との不和が煙草の匂いとかで緩やかに進行していく感じも映画表現的に巧み過ぎる。

極め付けは、”完全に崩壊した”というセリフ。これが”愛している”と同義であることは明らか。
雨の神社(寺?)デートも素晴らしい。

●後半のプロットが凄すぎる
割と前半までで、映画一本分くらいの満足度があったんだけど、舞台がイポに移ってからの怒涛の展開が凄かった。
前半での伏線を怒涛の勢いで回収しつつ、幽玄なラストに向かってスピードアップしていくので、後半の体感時間は前半の半分くらいだった。

自分の蒔いた種が思わぬ方向へ発芽していく流れは、連城三紀彦の「桔梗の宿(戻り川心中収録)」を彷彿とさせる。
退廃的で甘美。

●高い現代性
スマートウォッチ、アプリ、スマホロック画面の暗証番号、google翻訳の駆使。
回想で音声記録が使用され、過去の映像とリンクして一時停止するところとか、現代的なギミックも多くて楽しい。

あと現在・回想・妄想がシームレスに立ち上がる演出がカッコいい。「去年マリエンバートで」に似た上品な芸術性がある。

●影響を感じる映画
妻による夫殺しのサスペンス性と魅力のある悪人の雰囲気は「妻は告白する」を思い出した。
あと、不眠症の刑事といえばノーランの「インソムニア」が連想される。霧のかかった白昼夢の中を、気だるい頭で動く
ような映像感覚は「インソムニア」に似ていると思った。
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