たらこパスタ

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのたらこパスタのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

形状から考えると人体の表皮より外が外界で、表皮から内臓側を内側とした時、外界に対してこれは自分であると自覚することは無いと思うのですが、内側に対してこれは自分であるという自覚は大した安定したものでは無いということを思いました。
内側である(はずの)人体を内蔵の詰まった閉じられている袋とひとまず考えると、この作品で描かれる切開く行為・autospy、そして臓器の変容を通じて、自意識の掌握範囲の疑わしさと同時に可能性を秘めた強さを感じ、とても面白い物語だと思いました!
特に印象的だったのが、ソールとカプリースのサークを通じて行われる切り開く行為です。器官として付加価値与えるわけでは無いためやがて切除される臓器がめまぐるしく産生される状況、それは得体の知れない・連続性が失われれ自意識のありかが疑わしい自己を抱え続けるという状況に似ているのでは無いかと個人的に思いました。その場合、カプリースによる切開とその得体の知れない臓器を探り見つけアートへ昇華するような行為はソールにとって束の間の安らかさを与えてくれ、同時にカプリースにとっても彼の内側を知ろうとすることへの達成度合いが高い行為であるように思いました。この公開パフォーマンスは作中でティムリンによってセックスであると指摘されていて、そのあとソールが苦手だと言っていた古風なセックスの不完全性を克服しているようにも思えると感じました。肉体を切り開けない痛覚の存在していた時代におけるセックスを、内面への接触を試みようとした際に壁となる肉体の隔たりを擬似的に克服しようとする行為だと考えると、切り開ける時代になったことでこの壁を無効化することに成功していると考えることもできるのではないか、というような感じで。
そしてここで不可欠なのが痛覚の消失であり、すなわち痛覚の消失は進化の過程での障壁の克服とも取れそうですがそこにソールは価値を見出していて、それはもしかしたら肉体の恒常性をある程度保つことによって自我の掌握(していると思える自認)をより安易にすることに繋がるような感じもして、また、進化の過程で淘汰されうるものへの憧憬を同時に感じました。

プラスチックを消化できるようになった人たちに対するソールの相対し方も面白かったです。マイクロプラスチック問題などもよく耳にしますし、今後今の環境で生きていくにあたりプラスチックを消化できるようになることは確かに有益な変化なのかも知れません、マッチポンプですが。ただ、彼らが紫のチョコバーを大量生産していた目的を推測すると、消化できない人々を進化で淘汰されたことにしていく未来に向かおうとしているのではないかとも取れると思いました。ソールは終盤ラングたちの肉体の拡張に対して信じるという趣旨の発言をし、その後オーキッドベッドの介助なく痛みを部分的に感じることに成功し、そのあと紫のチョコバーを食べるところで物語は終わります。この終盤の流れを観て、進化と淘汰の過程中にテクノロジーが介入した場合の危険性を提示すると同時に、テクノロジーによる肉体の拡張性を受け入れることへの肯定的な側面も感じ印象に残りました。信じ挑戦したその後の恍惚感のあるソールの表情、そして映像が静止しエンドロールに入ってもしばらく鳴っていた再び動いたブレックファストチェアの音ともソールの器官が消化をしている音ともわからないゴロゴロ音、もしくはそのどちらでもない音が非常に印象的でした。

以上長々と書いてしまいましたが自分は読解力がかなり怪しいので5割ぐらい個人的な妄想かも知れません!

ロケーションがとても魅力的で、廃墟プラスアルファのような建物や、薄暗いパフォーマンス会場、そして何より絶対今後動かすことがなさそうな大きな船が印象的でした!ロケ地はアテネなのだそうです。
転覆して長いこと放置されたような大きな船から物語が始まりますが我々の生活する現代からさらになにかパラダイムシフトが起きた後の世界という感じがして始まりからとてもワクワクしました!
あと音楽もとても中毒性があって、エンドロールとオープニングの音は電気信号を感じさせるミクロな広がりと有機的さ、そして深部まで侵食してくるような印象のある音楽でとても好きだった!
ライフホームウェア製品の造形もとても好き...!サークのコントローラとブレックファストチェアが特に好きだった!
たらこパスタ

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