きゅうげん

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

遠くない未来。人類は、痛覚を失い内臓を増やしプラスチックを食すという新しい進化をみせ始め、各国政府は新臓器の登録や非人道的犯罪の検挙などに血道をあげていた。
主人公ソールは、新臓器を公開手術で摘出するボディーアート・パフォーマンスのパイオニアであったが、一方で実は、進化推進勢力の地下活動を警察へ密告するスパイでもあったのだ。彼は止まらない肉体の変化を憎むあまり、自分の体を切り刻む芸術にたどり着いたというのである……。


肉体化したマシンと精神化したソフトウェア、そして身体性を拡張しつつ喪失もした人類。
クローネンバーグらしい異形のビジュアルイメージに驚いてしまいますが、しかし一方でこれは、何かしらの端末と自身の感覚入力とだけで学校・仕事・趣味・娯楽など生活のすべてが完結する、現代社会の延長線上に確かにある世界だと言えます。
揺籠のようなベッドも食事を介助する椅子も、機械の動きは人間のそれと重なるものだし、また乾き荒み古ぼけた世界観も、排他的かつ抽象的な情報社会のローカリゼーションと解せば頷けます。
ボディホラーのパイオニアであるクローネンバーグの表現する“変身”の魅力が、これまで以上により現実的になった……、ヴィゴ・モーテンセンがみせる恍惚のラストシーンはそれを寿ぐように映りました。

もうちょっと色々ふくらんだ物語をみたかった気もしますが、齢八〇歳になってなおこれほど強烈な世界を提示できるクローネンバーグ監督に脱帽です。
もちろん、ご子息ブランドンの新作『インフィニティ・プール』もメッチャ楽しみ!