keith中村

ウエスト・サイド物語のkeith中村のレビュー・感想・評価

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)
5.0
 スピ師匠版を観てきたので、こちらの想い出をつらつらと。
 
 私の世代の、ほかの多くの方と同じく、初めて観たのは1979年の正月に放送されたノーカット特番。
 番組スポンサー資生堂の薬師丸ひろ子主演「3分CM」が話題になった例の放送です。
 あのCMの監督が実相寺昭雄だったなんて知るのは、もっとずっと後のこと。というか、実相寺の名前すら知らなかった。とはいえ、当時10歳の私は、ウルトラマン・シリーズでは実相寺さんの作品にはすでにたくさんお世話になっていたわけですが。
 
 本作は10歳の子供が積極的に観たい種類の映画ではなかったんだけれど、5歳上の姉が「一緒に観よう!」と誘った(命令した)ので、炬燵で観てました。
 終わりは深夜0時じゃなかったかな。
 眠かったけれど、物語に引き込まれて最後まで観ました。
 
 翌日からは、指パッチンをずっとやってました。
 後に大学で出会う1歳下の後輩は、「ぼくは真似して近所の果物屋の店先から蜜柑パチりましたよ」。こらこら、万引きはいかんぞ。
 
 私のミュージカル映画の初体験が本作でしたね。
 ロミジュリも知らなかったし、のちにドハマりするMGMミュージカル群よりも何年も前。
 
 後にテレビでやったバージョンは、音楽パートだけカセットテープに録音したんだっけ。
 ってことは、当時まだビデオデッキが我が家になかったんだな。
 この「自家製サントラ」は繰り返し聴きました。
 金曜ロードショーだったかな。通常枠より延長してたんだけれど、それでもカットされてて、たしか「オフィサー・クラプキ」と「ワン・ハンド・ワン・ハート」は切られてた。
 
 私の通っていた高校では年1回、全校生を集めて体育館で映画を見せてくれた。
 16ミリフィルムを映写技師ともども借りてくるレンタルです。
 事前に各クラスに、先生が選定した「候補リスト」が貼りだされて、そこからクラスごとに1票として多数決で映画を決めるんだけれど、2年のときに本作がリストにあったんで、私はほかの学年・クラスの映画好きと連携し合って、それぞれに根回ししてもらって、組織票でもって本作を上映させました。
 当時は政治ができたんだな、おれ。今、仕事じゃ政治がぜんぜんできないんだけどな。
 
 ちなみに、その話を親父にすると、公開当時観ていた映画ファンの彼は、「当時はリチャード・ベイマーがぜんぜんぱっとせず、ジョージ・チャキリスがすごい人気だったよ」と教えてくれた。
 まあ、そんなのは本作を観れば誰でもわかることだけど、リアルタイムの証言なんで貴重だな~と思った。
 
 さて、上映会当日。
 冒頭の指パッチンから唐突なダンス。今から思えば無理もないんだけれど、ミュージカルのお約束を知らない多くの生徒がクスクス笑っていて、ムカついたもんだ。
 ダンス場の「マンボ」で「鳩歩き」する振付があるじゃないですか。
 あそこでは体育館中、爆笑になっちゃって、「カッコいいじゃないか! なんでみんな笑うんだよ!」と一人だけ憤ってました。
 
 ちなみに、1年の上映会は「卒業」だったかな。これも根回しした気がする。
 3年は、根回しせず抛っておいたら「ロッキー3」になった。「1ならまだしも、3かよ!」と憤慨してた記憶がある。
 
 VHSの時代、DVDの時代と、繰り返し観てきた。
 年1,2回は観てるんで、60~70回は最低観てる計算かな。
 この正月に、知人が4Kで録画したものを4Kテレビで見せてもらいました。
 これは綺麗すぎてびっくりした。
 空撮してる車の運転手まで見えるんじゃないの?! ってくらい。まあ、見えないんだけどね。
 
 ところで、ロバート・ワイズって、今なら「巨匠認定」してもいいくらいの監督なんだけれど、ずーっと「何でも器用に撮れる職人監督」くらいの位置づけだったじゃないですか?
 SFもミュージカルもホラーも史劇も戦争映画も撮るしね。
 「サウンド・オブ・ミュージック」と「ウェスト・サイド物語」と両方撮ってるだけでとんでもないし、どっちもで監督賞と作品賞獲ってる。「市民ケーン」の編集だってしてるんだぜ?!
 なのに、たとえば名前がちょっと似てるウィリアム・ワイラーなんかと較べると、何となく格下と思われてませんでした? って、俺もそう思ってたってことなんだけれど。
 日本で言えば、市川崑あたりとよく似た評価のされ方ですね。
 市川崑も再評価されたことだし、誰か偉い人が再評価してくれんもんかね。私が再評価したって仕方がないもんね。
 
 楽しいだけの黄金期ミュージカルに「メッセージ性」を持ち込まれたのは、MGMミュージカルが衰退してきた後で、ワイズにもその系統の作品が、上に書いたように2本ある。
 正直、「サウンド・オブ・ミュージック」のほうが、より好きなんですよ。
 最後まで楽しいしね。
 それに比べて、こちらは後半がずっと辛いの。
 
 それでも、やっぱり大好きな作品であることは間違いない。
 本作はリタ・モレノを見て感じて崇拝するための映画ですね。
 紫のドレスに身を包んだ彼女は、とても高貴でとても眩しい。
 踊ってる中での「静」と「動」の対比が見事で見事で。
 「アメリカ」が最高なのは当たり前として、どんなにスクリーンの端っこにいても目が行く。
 「マンボ」で、マリアとトニー以外の視界がぼやけてるところでも、マリアの前を通過していくだけで、「ああっ! 今のリタさん!」ってなりますよね。
 
 スピ師匠版で再会することができました。
 御年90歳! いつまでもお元気で!