Ren

手のRenのレビュー・感想・評価

(2022年製作の映画)
3.0
松居大悟監督は『ちょっと思い出しただけ』でネクストステージへ進んだと確信し、その次の一手としてはまあまあ納得の作風だった。特にダメな点や好きではなかった点こそ無かったが、若干の食い足りなさも....。

『ちょっと ~』で恋愛映画の金字塔を一つどんと建ててしまい、期待値も上がっていたところだったので少し薄かったような気がしてしまう。同じく金子大地の好演が光った『猿楽町で会いましょう』のようにドロドロに振り切るか、『愛がなんだ』のように恋愛黒歴史を突き刺すか、そのどれでもなく、恋愛そのものを美化もせず切り捨てもせず着実に描いていく。
『ちょっと ~』の後の小休止、次回作へ向けての助走段階として「こんなものも撮れますよ」という自己PR的な小品だったと思えば、楽しむことができた。

事実、濡れ場はどれも上手くいっていたと思う。その中で、初体験が楽しくて電話をかけるシーンなどギャグの要素を挟むことで笑いも忘れない。

性そのものを目的化するのではなく、恋愛に不随する要素として用意する距離感も良かった。性欲が爆発するような人間もおらず、ポルノのようでいてポルノではない。エロいけど見るに耐えられないとかは無い。ちょっとハメを外し気味の大人の日常はこんなもんでしょうという納得感。
監督は『私たちのハァハァ』や『くれなずめ』でもずっと狭い内輪ノリコミュニティにスポットを当ててきた感があり、それが恋人同士の恋愛関係に落とし込まれていっているのが見てとれて進化を感じる。

年上の男性(曰く、おじさん)のことを知りたいさわ子(福永朱梨)。松居大悟監督の十八番であったホモソーシャル描写、男性的な空気感の描写を踏まえつつ、それをさわ子という女性の視点から照射していく。物語が進むにつれ、それは恋愛感情的なものではないことが明確に浮き彫りになっていく。
父親というコンプレックス。他人を、さらに別の他者へ投影すること。ポスターに書かれたコピーが、ラストシーンへ向かうにつれてぐっと彩度を増していく。

さわ子がおじさんとまぐわう様子は描かれず、身体を預けるのは同年代の彼氏のみであることからも、「同年代の男性」と「おじさん」を異なる対象として見ていることが分かりやすくなっていた。

その他、
○ 津田寛治が良い。適度な色気がありながら絶妙に気持ち悪い演技もできる。あの役は彼でなくては駄目だ。
○ さわ子の妹役の大渕夏子、おそらく劇映画初出演だと思うのですが、この役を引き受けたことに拍手を。徹頭徹尾無垢な笑顔と人生楽しくて仕方ありません感が滲み出ていて良かった。
○ 前述の通り、『猿楽町で会いましょう』の金子大地が戻ってきた。板についている。
○ 我々映画好きは、松居大悟監督、今泉力哉監督、𠮷田恵輔監督の名をもっと世間に広めるために映画館へ通わなければならない。多作でハズレが無くオリジナル脚本が書ける現行の邦画監督。
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