開明獣

遠いところの開明獣のレビュー・感想・評価

遠いところ(2022年製作の映画)
3.0
「海をあげる」上間陽子著、筑摩書房。この本は、2021年の本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞していて、確か書店でそのコピーに目がいって何の気無しに手にした一冊だった。普段は海外小説メインであまりノンフィクションは読まないし、本屋大賞にも興味はないのだが、その題名が何故か気になった。沖縄の話なのに、「海を返せ」じゃなくて、「海をあげる」とは?

まだ家族というものが外形的に存在してきた頃、もっと簡単に言うと子供が小さかった頃に、沖縄、石垣、宮古を何度か訪れた。単純に美しい海を満喫したいがためだった。上記の本を読んで衝撃を受けた。いかに自分が本当の沖縄を知らなかったのかに。これは、「82年生まれ キム・ジヨン」を読んだ時の衝撃に似ている。自分のいる世界がいかに安全地帯で、自分がいかに無知で無力なのかを思い知った気持ちだ。

上間陽子氏は、「海をあげる」の前に「裸足で逃げる」という作品を上梓しており、まさに本作に出てくる主人公のような女の子たちをルポルタージュしている。

そこから比べると、とても惜しい作品だと思う。テーマも捉え方もいいし、主演の役者も頑張ってはいるが、「これは凄いぞ」と推すまでには至らない。是枝監督の「怪物」と比べると大分落ちてしまう。

「怪物」と比べるのは可哀想というのは的外れな論調だと思ってる。¥2,000という値段がつけられて市場に出た瞬間に、映画という商品は同じ土俵にあがる。メジャーリーグに昇格したバッターは否が応でも、大谷翔平のように100マイル投げてくるピッチャーと対戦しなくてはならない。それと同じ理屈だ。

言葉を大事にしない作品に、いいものはない。少し前に薦めたショートの作品で、「きんつば」という日本伝統の和菓子をcandyという英語字幕をつけていて、がっかりしたことがある。和菓子と駄菓子は、同じ菓子でもニュアンスが大きく違う。雑な言葉の捉え方をする作品に未来はない。

本作では、音声の技術が稚拙なのか、編集のせいかなのは知らぬが、兎に角セリフが聞き取りづらい。また沖縄方言には一切字幕がつかないので、まるで外国語のように何を言ってるのかわからない。創り手側がコミュニケーションを拒絶してしまっては、観る方はお手上げである。言葉をもっと大切にして欲しい。

その他、もっと話しを刈り込んでいいんじゃないかと思う。2時間超える必要があっただろうか?残念ながら、いささか冗漫な感じは否めない。

厳しい論調にはなったけど、このテーマは是非掘り下げて欲しい。主役の役者さんは、これ一作では判断が難しい。監督も主演の俳優もまだまだ伸び代あるはず。

閉塞した負の連鎖の中でどこまでも堕ちていくのは、人のせい?システムのせい?生まれた環境で人生が大きく左右されるガチャみたいな世界や社会に私たちはどう対峙すればいいのだろう?問題提起型の映像作家として更に羽ばたいて欲しい。
開明獣

開明獣