開明獣

フォレスト・ガンプ/一期一会の開明獣のレビュー・感想・評価

5.0
みなさま、お久しぶりです。とても遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

実は昨年の終わり頃から、重篤な病と闘っております。劇場へ赴くどころか、家でも2時間近くの動画を見続ける体力も気力もなく、今はひたすら病気と相対する毎日です。

人は愚かなもので、いつかは死ぬと分かっていても、それが間近に現実味を持って現れないと実感が湧かないものなのですね。そんな中、私を励ましてくれた言葉に、「一瞬よりもいくらか長い時間」というのがありました。ノーベル賞作家、大江健三郎が、その晩年の著書、「燃え上がる緑の木」の中で、同じくノーベル賞詩人のW.B.イエイツの言葉を引いたものです。

作中、不治の病に冒された少年が、主要な登場人物と会話するシーンがあります。彼は、「自分は死ぬのが怖い。死んでも、この世界が連続して在り続けることが怖い」といいます。それに対して、語られた言葉が、「一瞬よりもいくらか長い時間」なのでした。

私達の人生は、ほんのちょっとのことの積み重ねです。街路に色づく木々の葉に心癒されたり、コンビニで何気なく買ったスイーツが美味しかったり、そんなことの積み重ねこそが、私達の人生であり、永劫という恐怖から逃れられ術なのではないかというものです。

それと逆のアプローチで、同じことを表しているのが、「葬送のフリーレン」だと思います。人間の一生から見たら、永久にも等しい命を持つエルフのフリーレンは、逆に虚無的、刹那的な考え方に染まっていきます。しかし、彼女は限りある短い命を持つ人間との出会いを通して、「一瞬よりもいくらか長い時間」の素晴らしさを感得していくのです。

この「フォレスト・ガンプ」には、別の角度から人生に対する処し方のヒントを与えてくれます。風に舞い上がる鳥の羽は、あてどもなく飛ばされていきます。それはどこに行き着くかも分からず、なすすべもなく流されていきます。まさに私達の人生も同様で、運命に翻弄されて、時にしたたかに痛手を喰らい、時に思わぬ幸運に見舞われ、生きていくのです。

「ショーシャンクの空に」と「パルプ・フィクション」という他の年なら確実にアカデミー賞を獲っていただろう、歴史に残る名作を2作も抑えてアカデミー賞を獲った「フォレスト・ガンプ」。暗殺や暴動という血塗られた米国の黒い歴史を描いた社会派ドラマでもあり、1人の男の数奇な運命を描いたヒューマンドラマでもあり、一途な愛を貫くラブロマンスでもある重層的な作品ですが、根底にあるのは、監督のロバート・ゼメキスの弱いものへの優しい視点です。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主人公、マーティ・マクフライは、背も低く、成績も大したことなく、家庭環境もあまりよくなく、組んでるバンドも受けない、短気で冴えない少年でした。これまた冴えないというより、鼻つまみものに近い扱いのドク・ブラウンとの出会いから、彼の運命は変わっていきます。翻弄されながらも抗いゆく人間を応援する視線は、BTTFから、この「フォレスト・ガンプ」で昇華されたと言えると思います。

ガンプも時に悲しく、時に愉快な様々な経験を経て、自分の人生と対峙していきます。私が一番好きなシーンは、次のシーンです。最愛の人、ジェニーと紆余曲折の末、ようやっと結ばれたのに、彼女はフォレストの前から姿を消してしまいます。やっとジェニーから便りがあって喜び勇んで会いにいくと、そこには1人の可愛い少年がおりました。ジェニーは、その子がフォレストの子供だと告げます。激しく動揺するフォレスト。ジェニーは、フォレストに知的障碍があるため、ことの次第が飲み込めないのだろうと、「大丈夫、あなたは何も心配することはない」と慰めます。しかし、フォレストが発した言葉はこうでした。

“Is he smart?”

彼は決して、“Is he stupid?”とは聞かないのです。stupidと幼い頃から言われ続け、いじめられ、嫌な思いをしてきたフォレストが最も忌み嫌う言葉であり、彼は自分の息子にその形質が伝わってしまっていたらと心配のあまり動揺したのでした。最愛のジェニーですら、その心のひだをすぐには組めなかったもどかしき想いが、このシーンを更に美しいものにしていると思います。

フォレストも、沢山の「一瞬よりもいくらか長い時間」を積み重ねて生きてきました。ヒューマニストとしてのゼメキスの人生讃歌は、多くの人を魅了し、励ましてくれているのだと思います。

私のライフタイム・ベストは、甲乙付け難く2本あって、一つは、この「フォレスト・ガンプ」で、もう1本は「ニュー・シネマパラダイス」です。「ニュー・シネマパラダイス」は一昨年あたりにレビューを書いていたので、この機に「フォレスト・ガンプ」について書いてみました。普段なら5分もあれば書いてしまえるレビューも、元旦からコツコツ書き溜めてやっと書き終えることが出来ました。拙いレビューながら、今の自分に出来る最良の仕事だと自負しています。

自分はこのレビューを、自分のスワンソングにしようなどととは毛頭思ってはいません。必ずや病気を治して、また、錆びた鉈でぶった斬るような猛毒度満載のレビューをお目にかけるつもりです。それまでの間、暫しのお別れです。人生は何が起こるか分からない、だからこそ生き甲斐があると思います。それを表した、「フォレスト・ガンプ」からの名言で、このレビューを締めくくりましょう。

“Life is like a box of chocolates. You never know what you’re gonna get!”
開明獣

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