松原慶太

丹下左膳餘話 百萬兩の壺の松原慶太のレビュー・感想・評価

丹下左膳餘話 百萬兩の壺(1935年製作の映画)
4.2
早逝した山中貞雄の代表作。アマプラにて鑑賞。製作年度を考えると信じられないくらい面白い。例えばマキノ雅弘の監督した丹下左膳と比べると、90年前の映画を普通におもしろく最後まで観れることがいかに凄いことか。

ほぼ全編、テンポのいいコメディ調でストーリーが進行する。これが小気味いい。丹下左膳も、お藤(お店の女将)も、口が悪くぶっきらぼうだが、身寄りのない子どもには優しい。

ほんらい丹下左膳というのはニヒルな悪役という設定だったらしく、原作者はコメディ調のこの映画を見て激怒したそうである。

そういう意味では異端の映画だが、結果的に本作が邦画屈指の名作として後世に残ったというのも皮肉な話。ルパン三世の異色作である「カリオストロの城」が残ったようなものか。

大河内傳次郎の見せ場である殺陣は、意外と少ないが、すれ違いざまに盗人を切るシーンなど、際立った印象を残す。

たしかGHQの検閲によって終盤の大立ち回りは削除されてしまい、映画の完全版は残っていないという話であるが、それでもうまく起承転結はつながっており、数少ないアクションもキラリと光っている。
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