keith中村

ロッキーVSドラゴ:ROCKY IVのkeith中村のレビュー・感想・評価

ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV(2021年製作の映画)
5.0
 スライ兄貴、グッジョブ!
 こんなもん、満点ですわ。
 
 「ロッキー/クリード」シリーズで最も重要な作品にも関わらず、最低のバカ映画だった「ロッキー4/炎の友情」をこんなにも見事に蘇らせてくれたスライ兄貴に感謝!
 っていうか、ここまで作り変えれられるレベルのフッテージがあったってのも凄いことです。
 
 まず何よりも"Sico the Robot"のオミットですね。
 オリジナル版最大のバカ要素が、このロボット。
 実に上手く切ってました。
 ポーリーの誕生日なんかはばっさりやっちゃっても何の問題もないんだけれど、アポロがロッキーを訪ねてみんなでテーブルを囲むシーン。ここ、途中でシコがやってきて、アポロがギョッってなるじゃないですか。でも、そこだけ器用につまんでつなげてました。
 あと、ロッキー・ジュニア(本作では実子のセイジくんじゃないですね。RIP!)との会話なんかも細かく切って、「ロボット」を消してる。
 徹底的にシコを排除したもんで、せっかく自宅でテレビを見て応援してるジュニアも全部ばっさりいっちゃった。このシーン、全部後ろにシコが映ってるから(笑)。
 
 星条旗とソ連国旗柄のグローブの「どっか~~ん!」はもちろん削除。
 まあ、逆に何だか物足りなくなった気もするけれど、これからは(本作が今後メディア化や配信されるのならば)その時の気分で好きな方を観ればいいという贅沢な選択肢が増えたってことで有難い限りです。
 ともかく本作では東西冷戦の対立構造を極力リデュースしてありましたね。
 
 逆に、ミーシャが拍手するシーンが、「ミーシャと政府高官たちが黙って席を立つ」に変わってたのは、現実世界ではミーシャがペレストロイカを推進して、このほんの少し後でソ連が崩壊することを思えば、「雪解け」的にミーシャが率先して拍手するままでもよかったのかなあ、とも思いました。
 とはいえ、リアルタイムに観てた頃は、この拍手(と、ソ連国民のロッキー・コールに)「ない、ない!」って笑っちゃってたけどね。
 
 ドラゴの人間性を強調するカットの追加は、「クリード 炎の宿敵」からの逆輸入ですよね。
 うん。本作のほうが「クリード2」にナチュラルに接続できるわ。
 まあ、やっぱそもそもそれをフィルムに収めてたスライ兄貴がすげえってことですけどね。
 
 最大の号泣ポイントはアポロの葬式シーンの別バージョンですよね。
 そりゃ、ロッキーも慟哭してるし、観てるこっちも泣くわ。
 「愛してたぜ」
 もう、号泣でした。
 
 そういえば本作では「ミスターTとの対戦後のロッキーとアポロのいちゃいちゃスパークリング・デート♡」も切られてましたね。ちょっと寂しい。
 まあ、そっちは「ロッキー3」を観ればいいだけの話なんですが。
 
 私の世代にとっては、ロッキー・バルボアはもはや実在の人物なんですよ。スライ兄貴のドッペルゲンガーみたいなロッキーが実際にフィラデルフィアにいるって思っちゃってるの。
 で、「ロッキー/クリード」シリーズは、そのドキュメンタリーって思うのね。
 その意味では、ミッキーもアポロもエイドリアンもポーリーも、愛する人をどんどん失ってどんどん孤独になってくロッキーを見てるのはほんとに辛いわけ。最近ようやく「チャンプを継ぐ男」を得たロッキーさんではあるけれど、ずっと喪失を続けてきたロッキーさんにとっての人生のピークがドラゴ直前の時代。
 ただ、オリジナルはバカ映画だったんでものすごくアンビバレントな感情をもたらす映画だったんだよね。
 その意味で、本作は本当に最高の「再話」でした。
 喩えていうなら、「ウルヴァリン」シリーズに対する「LOGAN」。
 「本当はもっと過酷だったリアリティラインを、シンプルな英雄譚に変換していた物語」の「過酷な真実」を見せてくれたとさえ感じました。
 
 本シリーズと共にアメリカン・ニューシネマに引導を渡したルーカス師匠は、改訂するごとにオリジナルを封印しちゃってるけど、ちょっとスライ兄貴の爪の垢貰ってこいや!