マヒロ

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのマヒロのレビュー・感想・評価

3.5
ニューヨーク・タイムズの記者であるジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、映画界の重鎮プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインによる女性への性被害についての取材を始める。トランプ元大統領のセクハラ発言を暴いたミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)と共に調査をする中で、権力と恐怖により被害者を泣き寝入りさせていたワインスタインの悍ましい所業が明らかになっていく……というお話。

映画界が決定的に変化した出来事として未だに記憶に新しい(といってももう6年前か……)#me too運動の勃発のきっかけとなった、ハーヴェイ・ワインスタインによる長年にわたる性暴力を暴き出した報道について、調査を主導した二人の女性記者について描いた作品。地道な取材を繰り返し徐々に証言を集めて記事を仕上げていく『大統領の陰謀』や『スポットライト』のような骨太な報道もの。

ワインスタインがやったことはほぼ明らかで、取材としては記事にするための決定的な証言を集めるだけなんだけど、心に深い傷を負った被害者達は、まだ圧倒的な権力を持っていたワインスタインに対して矢面に立ち再び打ちのめされることを恐れて取材には非協力的な態度をとる。今でこそワインスタインは失脚・逮捕されるまでに至ったけど、もし誰も声を上げずに一人だけの証言しか出てこなかったとしたらまた封殺されて終わっていた可能性もあるわけで、様々な告発を引き出すきっかけとして今作で描かれた取材があったのかなと思うと、地味ながら世界のあり方を変える大きな一歩だったのかもなと思った。

事実を淡々と述べていくような作品で、派手な脚色は(恐らく)殆どなく、直接的な加害シーンも描かれないようにされている。そのシンプルさが事件の全容をむしろ浮き彫りにして分かりやすくなっており、映画としても観やすいだけでなく、単にエンタメとして消費させずに真実を伝えるメディアとして後世に残していこうという気概の感じられる誠実な作品だと思った。

(2023.118)
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