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アテナのRenのレビュー・感想・評価

アテナ(2022年製作の映画)
3.5
映像の圧力と長回し、2つのストロングポイントで捩じ伏せた作品。100分以内で纏めてくれたのも偉い。思想的というよりかはルックにこだわって作られた映画、という気がどうしてもしてしまうけど、観て損は無いと思った。

これを観た全員が褒めている冒頭10分。正直ここがクライマックスではあるのだけど、観客をグッと掴むための努力と工夫に満ちていたし、それが成功していたのが素晴らしかった。カメラ一台を持ち替えて撮り続けたワンカット、どうやって撮ったかは理解できるけどどうやって頑張ったのかは理解できない映像の力。そういうシーンばかりで構成された98分の臨場体験。

「憎しみと暴力の連鎖」という普遍で深刻な永遠のテーマを、架空の団地を舞台にフィクションの力で浮き彫りにする。
市民を見張り守る警察が、汚職や不祥事によって市民から見張られる存在となった現実の写し鏡として、存在はするべき映画。警察による障害事件は市民の目から隠され、それに対する復讐は警察の手によって制圧されるという暴力の非対称性が最後まで分かりやすく描写されており、現実を捉えた映画として最後までずっと理解しやすいのがポイント。
この価値観を横断するのが主人公だ。彼の変遷を長回しで捉えることで、映画は観客を巻き込んでいく。
今作を観て、もし、復讐では何も解決しないな、暴力・暴動は良くないと思いました、で止まってしまう人がいたらそれは平和ボケかと。

端的に言ってこれは戦争だ。団地を舞台にしながら、暴動の戦線には参加しない一般市民と高齢者・子ども・女性が画角から完全に排斥された世界。社会問題映画としてそんな彼らを映さないのは不誠実だけど、戦争のグロさ(死とか傷とかそういう意味では無い)が高い熱量で詰め込まれているため、観た人がこれを議題として語っていくべきところだと思う。滅ぶべき男性性の象徴のような話でありながら、そうなるしかなかった、なるべくしてなってしまった世界の話。

一方で、ワンカット撮影が手段でなく目的化するのはワンカット映画の宿命だけど、今作も例に漏れずそうであったと感じる。セットすごい!特殊効果すごい!撮影すごい!と外側に着目して終わりなレビューを読む度に、この映画の存在意義は(大層なテーマを据えたのに)それでいいのかと考えてしまう。と同時に、作り手がそう作ってしまったのだからそうなのだとも思う。
音楽もちょっと感情を煽りすぎかな....。

『雨を告げる漂流団地』といい『LOVE LIFE』といい、2022年は団地映画が多い気がした。
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