けんたろう

アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスターのけんたろうのレビュー・感想・評価

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ゾオイ・サルダナは緑でも青でも美しいおはなし。


土地々々の美しき伝統や信仰、民俗などを毫も慮らず、又た尊びもせず、一次的で一方的な価値観から彼れらを未開人だと見下ぐるブンメイジンの高慢さ。美しき信仰心を忘れ、又た清らかなる感性を忘れ、其んな蒙昧たる己が姿の一切を省みず、たゞ慾望のまゝに神を殺し、愚劣なる蛮行を幾たびも繰り返してしまふ、我れら人類の悪徳なる性。ケダモノとは一体どちらであるか。野蛮とは一体なんであるか。
抑〻啓蒙さへもが傲慢である。ブンメイジンこと科学・技術の奴隷が偉さうに施す「教育」なんてものは畢竟鼻糞に過ぎない。

然ういふ、いつからか、何んでも自分の思ひどほりに出来ると自らの力を過信するやう成つてしまうた人類に対し、己が小さゝを改めて認識せしむる一作こそ、本作『アバター』である。余まりに広大なスケエルは、観る者を究極圧倒させ、数多の発明に因つて膨れあがつた自信を一挙に打ち崩す。大地、海、空に畏敬の念を覚ゆる感性は再び獲得せしめられ、今一度大自然に還る歓びを味はゝす。
繊細なる神霊と圧倒的なる大自然とが織りなす、神聖で荘厳なる圧巻の映像美。我が味覚嗅覚触覚にさへ響かせたる其の世界は、最早やスクリインを隔てた彼岸ではない。IMAXのよく云ふ「息を呑む臨場感」とは正に此のこと。観賞ではなく体験。彼の鮮烈なキヤツチコピイ「観るのではない。そこにいるのだ。」は何んの誇張でもない。文字通り、究極の映画体験である。

むろん自然ばかりではない。素晴らしき作品には、矢張り観る者を魅了する「人間」が在る。本作も亦た然り。
パンドラの民ナヴイの営みや、主人公の涵養、然うして脅威へと立ち向かふ彼れらの勇姿には、甚だ心を奪はれた。
ゾオイ・サルダナ演ずるネイテイリも亦た魅力的である。彼の見目麗しき容貌と可愛らしき表情とには、何う抗うても惚れてしまふ。其んな彼女に恋ひしてしまつた主人公を大佐は嘲つてゐたが──、おまへ一遍彼女と過ごしてみろ。其りや惚れるぞ。
たゞ其の大佐も、軍人として上司として視ると魅力の塊まりであつたりする。詰まるところ、敵も味方も皆な其々生きてをる。そして其の生が露骨にではなく、垣間見えるやうに描かれてゐるからこそ、深く惹きつけらる。兎角大迫力の自然だけではない。本作では、繊細なる人間模様も亦た強く活写されてゐるんである。

其んな、壮絶なる愛と戦ひと信仰の物語り。昂奮と感動の大スペクタクル巨編。再び君臨したエンタアテイメントの王。劇場で──其れもIMAXで──、観られたことを大へん嬉しく思ふ次第。