けんたろう

イリュージョニストのけんたろうのレビュー・感想・評価

イリュージョニスト(2010年製作の映画)
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素敵。


絵のタッチとサイレント映画のやうなテンポとが、タチのコメディ、延いてはおじさんと少女の物語りに、非常に絡み合うてをり、大へん魅力的。
スラップスティックコメディのスピード感と、物語り自体の落ち着いた雰囲気は、一見対立しさうに思へるが、然し本作では両者がしっかりと手を取り合うてをる。何んなら、其れに依りて、静かで小粋なる趣きを呈してをり、大へん惹きつけらる。矢張り究極のところは、サイレントコメディなのだ。不粋なる ”言葉” など必要なし。最後の言葉なき優しさも亦た、非常に胸に沁む。

果たしてタチシェフおじさんは、アニメに成りても最高のコメディアンである。寧ろ御仁は、本アニメーションに依りて最後の真価を発揮したんではあるまいか。
然ういふ意味も込めて、タチの遺作は、然るべき人の許に渡ったのではないかと私しは思ふ。