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福田村事件のkamioriのネタバレレビュー・内容・結末

福田村事件(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 しんどい。人間が嫌になります。
 どうしてこんなことが起きてしまうのか。国家的なプロパガンダ、愛国主義的な教育、隠居軍人の自尊心、村八分への恐怖。たぶん複数の因子が絡まった結果なんだと思う。村の中での人間関係やゴシップがこと細かに描かれているのは、その事実を示すためなんじゃないかな。
 言い換えると、悪の因子はわかりやすく取り除くことができない。もはや手の施しようのない悪に向き合ったとき、はたして自分に何ができるだろう。澤田夫妻や村長の無力さは他人事とは思えなかったです。

 自警団に参加した人たちの多くが、朝鮮人を恐れていたのも印象的だった。差別に加わる人が抱えている感情の本質は、恐怖なのかもしれない。
 一度でも他者を攻撃してしまうと、反撃を恐れることになる。恐怖から逃れるためには相手の反撃を不可能にするしかない。
 その負のサイクルから逃れられないのならば、やはり加害者にならないようにベストを尽くすしかないと思った。

 最初に瑛太さんを襲った女の人の動機はなんだったんだろう。子供を守りたかったのか。動機がわからないのがいちばん怖かった。
 男たちは、彼女が口火を切ってから一斉に殺しを始めるのが最悪だった。これが虐殺の本質か。

 新さんの内省的な演技にはいつも引き込まれてしまう。妻の浮気を見た後に、風呂に浸かろうと言えるのは優しさなのか、絶望なのか。
 田中麗奈さんは久しぶりにお見かけしましたが、とてもチャーミングな演技でした。静子の竹を割ったような性格は物語の数少ない救いだった。
 東出さんは色気半端ないなあ。水道橋博士は最悪のおっさんで、作品の影のMVPだったと思う。
 メガネの男の子が死を悟った時に「俺はなんのために生まれてきたんだ」と嘆いていたのがずっと頭から離れません・・

2023年29本目
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