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フォロウィング 25周年/HDレストア版のkamioriのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

 面白かった! 時系列の操作というノーラン監督の最大の特徴はこの頃から変わらないんですね。その人の基本的なスタイルって、じつは若い頃から確立されてるのかもしれないと思いました。
 自白のシーンからはじまる構成がうまい。彼が尾行を趣味にしていたこと、それが災いして大きな問題を抱えてしまったことは明かされるけれど、その間に何が起こったのかは見当もつかない。観客はその空白を埋めるために頭を使う。自然と映画への没入を誘っている。
 主人公が孤独で不安定な男なのが物語のポイントだと思った。己を律する軸がないゆえにそれを他者に求めてしまう。空き巣という犯罪行為には易々と手を染めてしまうが、バッグをはその家の物をつかう、家主が隠し持っている箱の中身を開けるなど、コッブの独自の流儀にはなんの疑いもなく従うの象徴的である。
 また、不法侵入の対象として自分の家を選ぶ場面にも主人公の心情がよく現れている。コッブはその家を物色して、「無職から奪うほど落ちぶれていない」と切り捨てるが、そのとき彼は自分が社会的に無価値であることを痛感したのだと思う。身なりを立派にしたことも、単に泥棒家業の都合というわけではなく、他者からよく見られたいという気持ちが働いた結果ではないだろうか。
 結果的にはその自己肯定感の低さとそれを満たすための承認欲求をコッブにも女にも利用されてしまった。惨めな男が悪へと転落していくさまは「ジョーカー」や「ファイトクラブ」などの作品も彷彿とさせる。その点においては近年のSF色がつよいノーラン作品とは少し手触りが異なっている。
 劇伴が不気味かつ過剰な音量で昔の映画みたいだった。そもそもモノクロで撮っていることも含めて過去の名作のオマージュ的な作品でもあるのかな。
 逆に主人公の家のロゴマークがバットマンなのはちょっとした予言になっていて面白かった笑。

2024年14本目
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