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福田村事件のAyaxのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.7
森達也監督作品って私は「FAKE」と「i-新聞記者ドキュメント」しか観たことないのだけど、ドキュメンタリーのイメージがある。一般的にもおそらくそう。
なんだけども、特に「FAKE」を観た時に「本当のことは結局本人しかわからないよな」と思った記憶があって、今作のインタビューでも監督が「史実を元にしたフィクションということはどこまで事実なんだと聞かれるけど、本当のことなんて誰もわからないから全部フィクションだと思ってもらっていい」と言っていて、監督の中でドキュメンタリーであれ、フィクションであれ、その点で同じなのかなと思った。
関東大震災時の朝鮮人虐殺の件は、教科書にも載ってるらしいのだけど、恥ずかしながらほとんど記憶がなく、大人になってから知った。知ったと言っても詳しくは知らなくて、今回映画で観てやっと把握。朝鮮人が井戸に毒を入れたとか、火をつけて回っているとか、デマが広まって、朝鮮人も殺されたし、朝鮮人と間違えられて日本人も殺されてしまったという悲惨な出来事。報告書などの記録はあるものの正確な犠牲者数は不明で、論者の立場によって、推定犠牲者数に数百名~約6000名とかなり幅があるらしい。どちらにしろかなりの数。
差別意識やモラル的に現代の感覚で私は観てるので、日本人クズ、政府も警察もゴミって思わされたけど、よく知らないわからない物事への恐怖心とか猜疑心って誰でも多かれ少なかれ覚えがあるんじゃないのかなというのと、そういう感情が震災のようなパニック時に噴き出すみたいなことって自分に起こらないとも言えない。元々持っている差別心と不安が合わさって正しい判断ができなくなる。勝手に怖がって勝手に敵視して殺して、何て人間は愚か。こんな最悪な事をして同情の余地もないと思う一方で、自分も有事の際に正しく冷静に振る舞えるかなとか考えてしまうね。東日本大震災とかコロナウイルスとか。私たちは愚かだから同じことを繰り返さないために少しでもいいからこのような事件があったことを知った方がいい。
映画としてどうだったかと言うと長かった。序盤や中盤はもっと縮めてほしかった。139分。よく寝なかったな、私。(監督が前半はトゥーマッチでコントロールできなかったとインタビューで言ってるので脚本部と対立あった模様)
ある意外な登場人物の行動を機に虐殺が始まってしまうのだけど、その時かかる音楽がテンション高めのアクションシーンみたいな曲で、正々堂々と戦ってるならいいけど、多勢に無勢で一方的にいじめみたいに殺したりするシーンには全然合ってないと思った。全然高揚する場面ではない(むしろ萎える)ので、場違いでえーって感じ。
水道橋博士が刀で刺すシーンもなぜか全然刺さってるように見えなくてなかなかひどく見えたけど、あれはあれでいいのだろうか。
ショッキングなシーンがあるかと思ってたのでそれほどでなくてやや拍子抜け。残酷なシーンを期待してるとかそういう意味でなく、インパクトが弱くて記憶に残らないかなと思う。逆に怖いシーンは苦手という人でも観られると思う。
方言がかなりきつく、聞き取れたり聞き取れなかったりでややストレス。
東出昌大は素行はよろしくないかもだけど男前だった。雰囲気あるし、背も高いし、やっぱり良い俳優さんだなと思う。声も良いんだよな。浅黒い(ちょっと汚い)日焼けした肌がちゃんと船頭っぽい。でも冷静になるとかっこよすぎかも。大正時代に東出昌大とか瑛太みたいな高身長の人あまりいなそう(当時の平均身長161cmらしい)。そんなに気にならなかったけど、井浦新もデカい。
朝鮮人に対する蔑視だけでなく、日本の被差別部落の問題も絡まっていて、興味深かった。
ダメポイント中心に書いちゃったけど、全然ダメじゃなくてちゃんとしてるし、目を背けたくなる事実に光を当てるのは意義あること。学びがたくさんあると思うので、一人でも多くの人に観られてほしいと思うし、広まってほしいなと思う。
配信待ちでも全然いいけど、関東大震災から100年という節目の年に観ておくのも良いかと。結構席埋まってて良かった。
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