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福田村事件のenidのネタバレレビュー・内容・結末

福田村事件(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

正直観る前から、これは映画という芸術作品ではなく人間描写より森達也監督の政治的メッセージが全面に出た映像作品になるのかなと思っていた。

史実とは関係のない感想が書きづらい。でも先に言っておくと、
私の好きな「日本映画」が詰まっており、冒頭からこれは傑作だ!!と興奮が止まなかった。

何気ない会話と空気感、感情が湧き出る行動。
田中麗奈の「ヤンなっちゃうわ」的投げやり女性像、コムアイの豆腐メンタル愛憎表現、とにかく指輪に水をかける不感症井浦新のゆらぎ…(最高)

昨今の「古き良き日本映画といえばエログロバイオレンス」という上澄みを掬った作品に辟易していたけれど、これは80年代日本映画の汗の臭いまで描いている。

森達也、ガチの人だ。
フィクション作品をこれからガンガン撮って欲しい。

後半の集団の暴走は言うまでもなく最悪だが、助けられただろうに無言で立って見ているだけの人が今もほとんどだろうよと、鏡をオラッと突きつけられるようだった。

何考えてんの?思考停止?考えてるフリ?ビビってんの?騒ぐとダサい?
「あなたはひどいことをしたのね」と、田中麗奈の言葉がリフレイン。つらい。
いくらでも言い訳はできる、でも見過ごすというひどいことをしたのだ。

私が「日本人」であることから、日本人ならではの無言癖が感性に突き刺さった。
日本人の美しさと醜さが詰まった皮肉かつ素晴らしい「日本人的映画」でした。

映画という芸術作品の力を久々に感じた。
後世に残すべき、いや必ず残る作品とこの時に出会えたことに心から感謝の念でいっぱいです。

森達也監督作品は長年追ってますが、さすが映像に執拗なこだわりを持つお方。そしてここまで人間を生臭く描く日本の映画監督は少ない。
貴方はガチなのでこれからもぜひ撮ってください。(2回目)


追記(11.8)

今思えば「虐殺のメカニズム」「集団心理」を描きたければ、前半の痴情のもつれ群像より、加害者側の群像にフォーカスして撮るべきでは、と思った。
製作陣の好きを詰め込む場所、この作品ではないだろうな。
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