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アアルトのヨークのレビュー・感想・評価

アアルト(2020年製作の映画)
3.6
本作『AALTO(アアルト)』はフィンランドが生んだ20世紀を代表する世界的な建築家であるアルヴァ・アアルトの生涯を描いたドキュメンタリー映画で聞き慣れない感じの『AALTO(アアルト)』というタイトルは彼の名前そのまんまということですね。人物がメインの伝記ドキュメンタリーではよくあるタイトルだ。最近俺が観たのだと『オスカー・ピーターソン』も被写体の名前がそのまんま映画のタイトルにもなっているというストレートなネーミングであった。
ちなみにアルヴァ・アアルトというと何となく名前を聞いたことある程度の知識しかなかったが、そんな俺にはちょうどいい感じのドキュメンタリー映画でしたね。ただ人物が被写体のドキュメンタリー映画としてはとても普通で平凡な映画。ま、オーソドックスで観やすいといえばそれも間違いではないのだが特筆するほど凄い! となるような部分はない映画であった。
アルヴァ・アアルトという人は1898年に生まれて二度の世界大戦をどちらも体験して、フィンランドだけではなく世界レベルで20世紀を代表するような大建築家になった人である。ちなみに彼の祖国フィンランドでは紙幣の肖像画にもなっていたという。そんなフィンランドが誇るアルヴァ・アアルトの活動は建築のみならず家具やガラス食器などの日用品のデザイン、絵画までと多岐にわたるという。本作で取り上げられるのは9割以上が建築だがその他の雑多な仕事も紹介はされていた。ただ、その取り上げられ方というのは上記したように普通。スタイルとしては映像で彼の作品群を取り上げながら、建築関係の人たちがアアルトの業績や人となりについてインタビューで語るといった特に捻りのないドキュメンタリー映画である。
そういう感じの映画なので、まぁ知らない人のことを知るための入門編という感じでは分かりやすく親切で、優れた作品ではあると思うのだが、上記したようにここが凄い! という部分がない平凡なドキュメンタリーだったというのも事実でそこはわりと退屈だったな、ともなるのである。一応見どころとしては建築関係の業績だけではなく彼と最初の妻(アアルトは妻と死別して後に再婚する)であるアイノ・マルシオとの関係が特に詳しく描かれていて、アイノあっての彼であり彼女の協力なしにはモダニズム建築の巨匠としてのアルヴァ・アアルトの傑作群は存在しえなかっただろうという内容になっている。そしてそこで描かれるアイノの活躍というのもいわゆる縁の下の力持ちや内助の功といったような夫を支える健気な妻、といったようなイメージのものではなくアイノ自身がアルヴァと大学の同期で建築を共に学び、その後一人前の建築家として活躍していたことが語られるのである。んで結婚する前から二人は共同作業を行っており、アルヴァの作品は必ず彼女との連名になっていたのだという。
映画を観てそのことを知ると、この感想文の最初にドキュメンタリー映画のタイトルとしてその被写体となる人物の名がそのまま付けられるのはよくあるストレートなネーミングであると書いたが“アルヴァ・アアルト”という彼のフルネームではなく、ただ『AALTO(アアルト)』というタイトルになっているのはそういうことかぁ、となるわけである。なるほどなー、アルヴァとアイノ、二人でAALTO名義なのだなー、というわけである。ま、その辺はアルヴァ・アアルトという人をよくご存じの方にとっては、今さら何を…、というくらいには当然のことなのだろうが俺は知らなかったので面白く観ることができました。これも上記してあることではあるが、そういう意味でも本作はアアルトという二人の建築家のことを知るための入門編としては堅実なドキュメンタリー映画ではないだろうか。個人的には建築を通したアルヴァ・アアルトその人を紹介するだけでなく、例えば建築に関しては門外漢だけど彼が作った作品(役所なんかもある)を普段使用している人々に対して「この建物どう思う?」みたいな一般からの目線の紹介とかもあった方が彼の仕事が実生活の中でどういう風に活きているのかが分かって面白かったとも思うのだが、そういうのはなかったですね。その辺はやや不満。映画の後半で若い頃は革新的な仕事をたくさんしたアルヴァ自身が大御所となり国を代表するような文化人となった後は、いわゆる既得権益の上で胡坐をかく老害のように思われて特に若者たちから疎まれていたという部分はなんだか哀愁を感じて味わい深くはありましたけどね。
そんな感じでめちゃくちゃ面白いドキュメンタリーということはないのだが、手堅い作りで教科書的な出来の良さはあるから期待を大きく外すことはないだろう。人物の伝記ドキュメンタリーとしては可もなく不可もなくです。そして何よりオサレな建物をたくさん観られたので俺としては楽しかったですね。建築好きならとりあえずで観ても損はしないんじゃないかな。
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