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西部戦線異状なしのTSのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
3.8
【なぜラストを改変した?】80点
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監督:エドワード・ベルガー
製作国:ドイツ/アメリカ
ジャンル:戦争
収録時間:147分
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 netflix発の古典的名作のリメイク。今年度のアカデミー賞にも数多くノミネートされているため期待できます。今作は今から90年近く前の『西部戦線異状なし』をリメイクしたもので、かなり前の映画なので観たことがない人も多いかと思います。しかし、比較してみるのも面白いのでこれを機に観られても良いかと思います。そして90年前の『西部戦線異状なし』は間違いなく傑作であり、今作も十分良かったですが、オリジナルと比べるとやや霞んでしまいます。ちなみに同作はレマルクの『西部戦線異状なし』を映画化したものです。

 西部戦線とは、第一次世界大戦におけるドイツとフランスの国境沿いの戦線のことであり、いわゆる塹壕線が展開された場所です。第一次世界大戦が長期化した根源でもあり、数百万人の兵士たちが命を落としました。今作はその泥沼化した西部戦線、特に塹壕戦を描いた作品であり、劣悪な塹壕の環境を垣間見ることができます。

 塹壕の中で数日ならまだしも、数ヶ月、年単位でここで過ごさないといけません。極寒の中、雨が降ってしまえば地獄と化します。足は痛み、腐り使い物にならなくなっていく。いっそのこと飛び出して機関銃の餌食になる方がマシなのかもしれません。今作の素晴らしいところは、この凄惨な状況を敗戦国のドイツ側から描いていることです。無論、レマルクがドイツ人だからではあるのですが、面白いのがこれをアメリカが製作しているということ。今でも異色作として名高いです。ただ、90年前の作品はドイツ側から描いているのにアメリカ映画だから英語で話されてるのが難点でした。ドイツもそこが苦いと思ったのか、今回はドイツ語、キャストもドイツ・オーストリア系で固めているのが特徴です。その点だけ言えば、今作は90年前の同作を凌駕していると言えましょう。

 ただし、映像技術が進歩しているはずなのに、どうしてもそのあたりは90年前の同作の方が、リアリティがあり迫力がありました。確かに90年前の同作が出来た十数年前にこの第一次世界大戦が起きていたのですから、製作する際、今作より実態を知っている人が多かったことでしょう。無論、これは比較してしまうからこそ言えるものであり、これだけ観ていれば十分見応えがある作品と感じます。

 個人的に一番気に食わなかったのはラストの改変です。これはどうだろう、一部の人からは改悪と言われても仕方ないと思います。今作のラストはネタバレになるので伏せますが、90年前の方はもう時効ということにして触れます。あのラストの蝶と主人公の手のシーンが完璧で、映画史に残る見事な展開であるのに。ああ、なぜ変えてしまったのか。90年前の方のリスペクトということで、敢えて変えたのならばわかりますが、今回のこの展開の方がウケる、という気持ちで変えられていたら残念でなりません。真意はわかりませんが、以上のことから充分良作ではあるけども、90年前の『西部戦線異状なし』には敵わないかなと感じました。もっとも、塹壕戦の悲惨さが伝わるので、多くの人に観てほしいですが。。
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