すごく良かった。ストーリーは男女が出会ってくっつくだけのシンプルな内容だが、どこかあったかい気持ちになれる。往年の名作を見ているようだった。
前半はそこまでだが、後半の犬が登場してくるあたりから急に良い映画の雰囲気が出てくる。一緒に犬が寝るシーン可愛すぎ。犬は正義。
それと随所に流れる音楽も素晴らしかった。歌謡曲のような民謡のような、独特のメロディがカウリスマキの暗い照明と鮮やかな色彩の画作りにマッチして、馴染みのない北欧の世界に連れて行ってくれる。特にあのバンドセットで歌う女の子2人組の歌がよかったな。知ってる曲の「枯れ葉」も最後に流れて嬉しかった。
映画は暖かく古い時代の雰囲気が漂うが、ラジオからはロシアのウクライナ侵攻のニュースが何度も繰り返し流れる。主人公はもうたくさんだと言わんばかりの様子でラジオの線を抜く。
フィンランドがロシアのウクライナ侵攻を受け、長年入らなかったNATOに加盟したことは記憶に新しい。フィンランドは第2次大戦前、ソ連からの侵攻を受け、独立を守った経緯がある。ウクライナ侵攻に対する恐怖心や怒りは他の国のそれとは別格だろう。
理想社会と見られがちな北欧だが、主人公2人の経済状況も悲惨なものだ。詳しくはないが、ロシアと国境の大部分を接しているフィンランドがこの戦争で受ける経済的なダメージは、日本より遥かに大きいのではないか。そしてそれはこうした末端の人々にこそ重くのしかかる。
それでも、アル中の労働者が慣れない花を買ったり、女性が新品の安いお皿でおもてなししたりする様子は見るものの心を暖める。
この「貧しくても人とのつながりで幸せは築ける」的なムードが昭和名画感に見えるのだろうか。文字で書くと食傷気味な表現だが、実際みるとそれがすごく良いから不思議だ。それはおそらく、上に書いたような社会的な背景であったり、人の心の機微であったりが繊細に表現されていることの証左なのかもしれない。
小ネタとしては、ジャームッシュのデッド・ドント・ダイが登場するのが最高にウケた。カウリスマキとジャームッシュは仲が良いらしい。「人生で一番笑った」とか「ゴダールみたいだった」とか面白すぎる…
ジャームッシュやウェスもそうだが、こう基本無表情な演技が徹底されている映画、なんかすごく好きだ。何が良いのか言葉にしづらいが、映画!って感じして良い。
あとどうでも良いけど心斎橋のイオンシネマ、全席隣の席との間に仕切りがあってめっちゃ快適だった。全映画館これにしてくれ。