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aftersun/アフターサンのギャスのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.6
"言葉では説明されない感情"や"何かを示唆するようなムーブ"がどのシーンにも溢れすぎていて、
淡々としたストーリなのだがあまりにも濃密。
太陽の輝くリゾート地だが、ずっと不穏に満ちていて常に身構えてしまう。

後味はとても切なく、再度最初のシーンを見返すと発見が多い。

アフターサンとは、日焼け後のケアをするローションなどのことだという。起こってしまったあと、起こったことの上に塗る手当て。あの太陽に満ちた日々の後。タイトルからして多重で示唆に富む。

ネタバレ
まだまだ無邪気な少女は、ピュアな愛と性に対する興味と憧れが始まる11歳。
反対に、そんな娘に護身術を真剣に教える父親は瞑想に凝っていて(書籍など)、あやうさや死の匂いがする。夜の海に向かう光景や1人裸でむせび泣く姿は、おそらく31歳になったソフィが(おそらく自殺した)彼を理解するために加えた記憶かもしれない。今でも理解できないその理由として、性的マイノリティだったのか、もしかしたら娘に対する欲情があったのか、ともとれる描写がそこここにみられる。もしくは大人になってゆく娘に対して親としてできることやらねばならぬこと、そばでできないことへのプレッシャーか。(もしくはやってはならぬこと)

彼女は今でも思い返すたびに(フラッシュのように途切れ途切れに見える、父親のいる暗い空間は記憶の世界か)、記憶はアフターサンのように塗り重ねられていくのかもしれない。

「一枚一枚に物語がありシンボルやモチーフが織り込まれている」高価な絨毯をあえて(最後だから?)買った父親。それは今は31歳のソフィのベッドルームにあり、
あの時の記憶の断片の意味するもの、好きなのに断固として歌わなかった歌の歌詞、楽しかった最後のダンス、それらの意味をずっと問いかけられているような存在だ。

歳を重ねて、あれはああいう意味だったのかもしれないなとふと思い返す出来事や会話は誰しもあるだろう。
今後この映画を見返すたびに、観ている側もまたなにか想いが変わるのだろう、真実はわからないまま、と思わせる切なさだった。
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