A8

理想郷のA8のレビュー・感想・評価

理想郷(2022年製作の映画)
3.9
事前情報やあらすじから読み取れば“都会からやってきた新参者”対“この自然豊かな土地に長く住み続けている地元民”の構図で物語が進んでいくと思っていた。
だがしかし、その考えは甘かったようだ。

“都会からやってきた新参者”は、一般的な教養を持ち、人生に価値を見出しこれから生きていくためのプランを立てた上でこの土地を選び、生活していた。一方、“この自然豊かな土地に長く住み続けている地元民”は、住民全体が〜ではなく、隣に住んでいた兄弟が主な相手だったようだ。確かに田舎の近寄りがたい凝り固まったコミュニティとほぼ野放し状態になっている警察、、そういった事実も最後まで描かれる。だけどこの兄弟というのはあまりにも凝り固まった目先だけしか考えられない簡単に言えば“野蛮人”すぎたのだ。彼らの影響で他が薄く感じるほど。

鍵になったのは“風力発電の誘致問題”であった。野蛮兄弟を含めた多くの地元民は、賛成に投票していたが、新参者夫婦は、反対票を入れていた。そこからなのかは定かではないが、野蛮兄弟からの迫害行為が激しくなったきっかけである。
確かに、新しいものなど受け入れる準備すらできてない村にやってきた新参者が自分たちの考えとは異なっていたり、自分を貫こうとする色が強かった場合、警戒したりする気持ちはわかる。
そして、まだ最初の兄弟たちの夫婦に対して行われる迷惑行為、そして夫婦たち、というが夫が彼らに対抗する姿は、よくある田舎でのカタチを表しているんだろうな、、と思っていた。しかし、彼らが決して超えてはいけない線を超えてしまった時、この作品に対しての印象がガラリと違う作品になったのである。

この作品のある登場人物が、「いい人と悪い人がいる」という言葉を同じシーンで2回言ったのを思い出した。夫婦たちを受け入れる人たちも確かにいたし、いい人もちゃんといた。だけど、悪い人もいるのは事実であった。そして、“無敵”な野蛮人も。
こういった人は、言葉が喋れるだけで、言葉が通じない、考えを共有できないということを頭に入れなければならないなという教訓のようなものを映画から教わった気がした。

「郷に入れば郷に従え」この言葉が正しいのかどうかはわからない。だけど、この言葉の究極を一つの結果という形として提示されているようであった。

田舎のこういったコミュニティのなかで起こる事件の闇は、人間の闇の深いところをみているよう。

あと、“愛”を知っているというのは人間にとってかなり大事なことなんだろうなと。
登場人物をはじめ、仲良くなった夫妻も“愛”があり、優しい笑顔、じゃれあい、、幸せな姿が垣間見れる。一方、野蛮な彼らの笑顔など思い出せない。彼らの不気味な顔しか思い出せないのである。
娘が母を思う姿、行方不明の夫を思う妻の姿、、彼らの“愛”が兄弟の姿と対比するように色濃く出ていた。

新参者(妻)と田舎に遊びにきた娘が市場に赴き、羊を持って帰るシーンがある。その市場たまたま居合わせた例の野蛮兄弟が娘や妻にちょっかいをかけたりし、それにより娘が過呼吸になり、1人で車で休むことになる。
その時のアングルが娘の視点とヤギを車に運ぶ(妻)の姿を長い間とらえる。
その時の、何か恐ろしいことが起こるのではないかという緊迫感により、手に汗をかいた。このシーンの出来事が表すように、後半度を超えた野蛮兄弟の恐怖を感じることになった。


実際に起こった事件をテーマに描いているということらしい、、。
まるで“リアル”を観ているような錯覚に陥るこの作品。登場人物の素晴らしく自然な演技がこの作品をさらに特別なものにしたのだろう。
そして、この村で繰り広げられる人間暗い争いは、この村の美しい自然に対して気の毒に思ってしまうほど。

結局、人間が1番怖いのかもしれない。
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