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ソウルに帰るのMISSATTOのレビュー・感想・評価

ソウルに帰る(2022年製作の映画)
3.8
東京フィルメックスで鑑賞。
作品としても面白かったうえに、想定外で興味深かったのは、韓国映画を見るよりも、韓国社会と日本社会の感覚の近さを鑑賞者の反応から如実に感じることができた作品だったことだ。

冒頭、泊まることにしたゲストハウスのレセプション係がフランス語を話せたことで、主人公フレディは韓国では流れに身を任せることに決めたような印象を受けた。戸惑いが大きくても、その先にあるもの見たさに自ら次の行動を決めているようで、次はどうなるのだろうと目が離せなかった。

鑑賞者から笑いが起きた場面がいくつかあったが、そのほとんどが、フレディの韓国の父親や祖母や親戚の大人が無意識に見せる、個人に土足で踏み込み、フレディが戸惑いや理解不能の固い表情を見せる場面だった。
どれも私は主人公に気持ちが寄っていただけに、その笑いが起きたことに戸惑ったし、怖いとすら思った。
特に、生物学上の父親が、酒に酔って韓国にいて欲しい韓国人の結婚相手を探してやると言う場面で起きた笑いは、心底肝が冷えた。
その前に初対面早々に叔母や祖母も一緒になって、何処に住んでるのか親と同居か結婚してるのかと聞く場面も笑いが起きてて……韓国社会と日本社会の近さを韓国作品以上に感じた。

決して父親やその親戚を悪人や変人のように描いてるわけではない。
むしろ明らかな善良者として当たり前の反応を描いていただけだろうし、日本人からしたら、よっぽど韓国側の家族の反応の方が共感しやすいのだろうと思う。
ただ総じて、血のつながった人間であろうと、年下であろうと、子どもであろうと、個人と個人ということを忘れてる様は、あまりに日本社会でも日常的に見る景色そのもので、私が苦手とするもので、見ていて息苦しくなる場面が多かった。
海外で育ったフレディが見る韓国社会を通じて、私自身が大人になればなるほど日本社会に感じる違和感を追体験しているような、とても不思議な感覚があった。

だから、フレディがどれだけ退廃的で情緒不安定な態度を見せても、それが彼女なりの葛藤を消化する方法なのだと分かって、何も不安を感じずに最後まで見れた。
ラスト、色々と受け止め方があるのだろうけど、私はとても前向きな気持ちで映画を見終えた。

良い映画体験だった。
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