HicK

ゴジラ-1.0のHicKのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

《「正義感の転換期:戦後」
を表したゴジラ作》
〜"人間不要論"に真っ向勝負〜

【ゴジラのデザイン】
カッコいい。歴代やハリウッド版も全部入ったようなデザインで、誰もが受け入れやすいゴジラなんじゃないかな?。自分は思い入れがある平成シリーズの面影を感じて好きだった。一方、最もオリジナリティーがあった背びれの"トリガー"的演出は、そんなに惹かれなかったかも。ロボット感。ハリウッド臭がする。

【VFX】
今まで白組(VFXチーム)の仕事で手放しで賞賛できる作品はなかった(ハリウッド見慣れちゃうとね。しかもそれが日本最高峰のチームと言われてしまうと…。)けど、今回は驚くほど良かった。ゴジラの質感も「シン・ゴジラ」同様にラバースーツに寄せて、実在感がたまらない。

冒頭の大戸島のシーンは「もし54年版のゴジラ登場時に自分がその場に居たら…」的なカメラアングルでワクワクした。一番好きだったのは海上のチェイスシーンで、ゴジラの重量感や質感、波のリアリティーとか興奮。追いかけてくるゴジラはジャれてるようでかわいい(と思ってしまうのは正解なのか?)。尚且つ、ほとんどが昼間のシーンで真っ向勝のVFX。ハリウッドにも引けをとらないクオリティーだと思う。お見事です。

【ドラマ】
正直、『終戦直後、何も力を持たない日本』からくる悲壮感、絶望感をもっと期待してた。終戦後という設定は「日本」に対してでは無く、主人公にドラマ性をもたらすための設定だった。

長めのドラマパートにダレてしまう場面もあったが、それでも思った以上に主人公の物語がドシっと太い核になっていて、綺麗に昇華していった印象もある。王道にも近い感動があった。ゴジラ作品としては新鮮。『死ぬ勇気がなかった主人公の後悔』と『命を粗末にした日本についての反戦テーマ』『命の大切さを説くメッセージ』、全てが綺麗に結ばれ、自己犠牲を美化せずにそれを回避していく展開は好きだった。戦後として相応しいテーマ。登場人物を絞った事や、物語をある程度シンプルにした事も主人公のストーリーを見せたかったからなのかなと思う。

船が助けに来るアベンジャーズ的展開、終盤の橘のシーン(おいしい役所)、そしてラストカット。ベタだけどウルっと来た。ゴジラ作品で初めてかも。

【主人公:敷島】
とことんドン底な設定が好き。逃げ出した特攻、背負ったPTSD、救えなかった仲間、責められる帰還、典子の死。黒い雨の中、叫ぶ姿はド・ドン底。そして、自己犠牲精神では無く自殺願望にも近い終盤。この闇堕ち、好き 笑。あと、戦争が終わり亡くした命の尊さを知る周囲の人物に対して、未だに"戦争"が終わらず命を捨てる事こそが正義(ゴール)だと思っている敷島の進行方向の不一致も、更に孤立を際立たせる展開で良かった。

【メタファー】
そんな敷島の前に現れる『戦争』のメタファーである(だと思う)ゴジラ。文字通り彼自身の"戦争"に終止符をうつ物語であり、人々が戦争の後悔・反省を全てぶつけて真の終戦を目指す戦い。綺麗。それでもまた蘇るっていうのも切ない。

【監督・演出】
例に漏れず自分も色々心配していた山崎監督だけど、今回のVFXは驚くほどお見事。ただ、演技に対するディレクションはこの作風だったらもっと抑え気味の方が好みかなぁ。あとは、地に足の付いたテイストなだけに、劇的に描いているシーンや視覚面以外のリアリティーの欠如(映画的ミラクル要素)、感動を後押しし過ぎる描写などがちょっと気になった。この辺は監督特有と言えばそうだけど、ひっさしぶりの「ファミリーエンタメとしてのゴジラ作」と考えれば「分かりやすさ」にも繋がっていて悪い点とも言い切れないのかも。あとはパロディー要素を感じてしまう場面があったのは少しもったいなくも思った。

それでも、結果として公開前の不安は払拭してくれた。自分の期待は置いといて「監督の目指したもの」を考えるとブレずに筋が通った作品だと思う。全ての要素が意図的に「シン・ゴジラ」の逆を突いていたのもゴジラシリーズらしい良い差別化。

【総括】
戦後を"正義感に変化が起きた時代"と捉えた物語はシンプルながら感情を揺さぶる力があった。予想以上にグッと来た。しかも、主人公のドラマ性においては日米合わせてもシリーズでトップクラスだと思う。"怪獣映画に人間は要らない風潮"の中、あえて骨太の人間ドラマで勝負しにいった野心も好き。なにより、VFXのレベルをここまで上げてきた事に意義がある作品。大々的に世界公開され邦画界への刺激にもなると思う。

ドラマ・設定・視覚面含め、自分の中では間違いなくシリーズ内でハイレベルな作品。
HicK

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