Ayax

怪物のAyaxのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.9
是枝監督と坂元裕二さんの脚本の食い合わせってどうなんだろうと思ってたら案外大丈夫だったというか、是枝監督の作品の中で、今作が一番面白いんじゃないかなという内容だった。
少し小難しい話を想定してたんだけど、坂元裕二さんの脚本が良い塩梅で娯楽性が高い。映画好きな人はもちろん、普段はTVドラマが主戦場の人も楽しめると思う。
私はなるべく事前に情報を入れないようにして観に行ったので、ああこういう話だったのかという。ストーリーについて触れるといろいろネタバレになってしまうので、最後にまとめて書く。
ストーリー以外のところだと、ロケハンと季節(天気)が100点満点では?画作りも大変素晴らしく美しいので、配信されたら家で観ようと思ってる人がいたら映画館で観た方が良いと思うよと言いたい。ロケ地は長野県諏訪市らしい。風景ではないけど、使われていない電車の窓が泥だらけでそこに雨が打ちつけるシーンがあって、チラチラと光ってとってもきれいで素敵だった。是枝監督か撮影監督かどちらのアイデアか存じ上げないけど、創意工夫と映像の美しさという点で映像的にはそこが白眉。ちなみに是枝監督が撮影はほぼお任せしたと言っていた。撮影監督の近藤龍人さん、是枝作品以外だと「桐島、部活やめるってよ」とか「そこのみにて光輝く」の方だ。覚えておこう。ああ私はリッチな映像を浴びているという感覚だった。
坂本龍一の音楽も坂本龍一でございって感じで使われるのかなと思ってたら、それも杞憂で「あ、これ坂本龍一か」くらいの程よい使われ方で良かった。
主要な役どころで子役の方が二人いて、是枝監督は子役に台本を渡さずに口伝えで演出するという方法を取ることで以前から知られているのだけど(それで子供の自然な言動を引き出す)、今回は本人たちに台本あるのとないのどっちが良いか聞いたら、ある方が良いと言われたから渡したらしい。演出方法変えても子供の演技が自然なので、単純にオーディションで良い子役を見つけるのがすごく上手いんだなと思った。現場での演出も良いのだろうけど。
ちなみに安藤サクラはストーリーの構成上、自分のパート以外は読んでないらしい。安藤サクラは当たり前に良くて、瑛太もめちゃめちゃ良かった。
エンドロールでVFXのスタッフ(英語だったので海外の会社かな)が結構クレジットされていて、火事のシーンかなあ。あれだとしたら、岸辺露伴の炎より1000倍くらい上出来だった。

〈以下、ネタバレ言及〉
3部構成になっていて、一つの事象でも見る人によって捉え方が違うというのがよくわかるのと、徐々に真相がわかっていく感じが面白い。事前に内容を調べないようにしてたので、観てる途中で「え、これ、ちょっとミステリーじゃん」と気付いた。本当は何があったのか知りたい!と思わせる吸引力がすごい。いわゆる緻密な脚本というやつで、ミスリードもさせつつ、ストーリーが進んでいくと、あの時のあれがあれかとピースがぱちぱちとはまっていく感じで気持ちが良い。無駄なシーンがほぼ無く、よく出来すぎてて、逆に気持ち悪いかなという感じ。カンヌ国際映画祭で脚本賞を獲ったのは納得感ある。
事前情報なるべく入れなかったと言ったけど、カンヌでの評価で、「怪物」とは何かについては薄々想像がついていて、まあその通りだった。子供が性的マイノリティーなのかもしれないと感じた時に、自分は普通じゃないと悩ませてしまう社会の目、親の目、周囲の目。この映画を観ている我々。男らしくとか、女らしくとか、無意識の言動で誰かを傷つけている可能性がある。差別する気持ちはなくてもやってしまってることいろいろあるだろうなあと思う。完璧に振る舞えるわけないので極力気を付けながらいつも自覚はしておきたい。
ラストの解釈については観た人の中でハッピーエンドとバッドエンドで割れていて、私は観た直後は明るいラストと捉えた。でもあまり根拠がなくて、バッドエンド派の言い分もわかる。ただ2023年に作られた映画であの子たちに悲しい終わりを迎えさせるのは相当時代遅れだと思う。そういう意味で誰が見てもはっきり明るい終わり方にしてくれた方が良かったかなあ。
生まれ変わる話を何度かしていて、最終的に生まれ変わりなんてないみたいなこと言ってなかったっけ?あやふや。であればやっぱり生きていてほしいな。
もしバッドエンドなら私の中では「ミッドナイトスワン」並みにイケてないってことになっちゃうな。
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