このレビューはネタバレを含みます
世界は複雑すぎる。生徒と教師どころか、親と子の間ですら、知らないことがたくさんある。人と人がわかりあうなんて、はたして可能なことなんだろうか。
怪物の正体は、わたしであり、あなたであり、そのへんのだれかである。人の印象なんて、状況によってまるで異なってくる。ある側面だけを切り取れば、誰だって怪物の顔つきをしているのだろう。そのような社会において、どのように他者と付き合っていけばよいのか。答えがほんとうにわからない。
早織はつよい母親だと思う。でも、息子を守ろうとした結果、図らずも保利の人生を壊してしまった。
保利もいい教師だったと思う。少し変わり者だけど、生徒思いで、心優しい。ただ「男はこうあるべき」という価値観が古かった。もちろん彼には悪意はない。それでも、彼の言葉は、少しずつ湊を追い詰めることになった。
依里はギフテッドなのだと思う。作文のトリックからもわかるように、彼の知能指数は明らかに他の子よりも高い。その一方で、倫理観も他者とは異なっていた。放火はおそらく依里のしわざだけれど、彼はそのことで罪の意識に苛まれてはいない。いわゆるサイコパスと捉えることもできる。しかし彼の生育環境を知ると、そのことを偶然の資質の問題として片付ける気にはなれない。
校長はもっとも達観した存在だったと思う。正しい/正しくないの基準がいかに不安定なものであるかを彼女はよく知っていた。しかしながら、彼女が早織に対して、機械のような態度をとり続けた理由はよくわからなかった。孫の事件の真相や、走り回る子供に足をかけるシーンも含めて、一義的に理解することのできない、ある意味でもっとも怪物的な人物だった。
ラストシーンの受け止め方も悩ましかった。障壁がなくなり、どこまでも行けそうな世界は、現実なのか、もはやこの世ではないのか。そして、そのどちらならハッピーエンドなのかもよくわからなかった。
途方に暮れるばかりの物語だけれど、このような作品に出会うことが生きていくエネルギーになると思いました。
2023年20本目