ちーずとまとりんごちょこ

怪物のちーずとまとりんごちょこのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.9
よく、映像か、小説かという議論が起こる。
私個人としては、映像でしか味わえない何かがあるのか、文字に起こすと化ける何かがあるのか、で判断している。

今作は間違いなく前者だ。

極力前情報を得ていない状態で観に行った方が良いと思われる。

最初の30分、私は嫌な脂汗をかくかのような心地がした。
俳優陣たちの演技、制作陣たちの巧みな演出により、人間としての根源的な恐怖や不快感を呼び起こされた、と言えばいいのか。
それは文字にすればするほど薄れていってしまうような、簡単に言語にできない、正に根源的な感情だった。

この物語は多人数視点で展開する。
その構成が、いかに私が短絡的に物事を見て、判断しているかを思い知らせた。

ひとつの出来事は言わば球体のようなもので、
きっと、どんなに注意深く振舞ってみようとも、球体の全ての面を一度に把握することは出来ない。
くるくると回転させ、上下を逆転させて、そこで初めて、その出来事の全容を知ることができる。

一度にそれぞれの人物の目線から見た真実を知ることは出来ない、という事は、それぞれが真の理解に至るまで、時差があるということ。

その時差こそが、誤解を生んでしまう。

誤解はひずみを生み、人間の醜悪さを引きずり出す。

それでもこの映画を見終わったあと、きっと沢山の人が、

「とても美しい映画だった」

と感じるだろう。