umihayato

怪物のumihayatoのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
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「これはクィアの映画である」
と言う前情報を知ってから見ました。
結果、これは先に多くの人に周知しておくべき事だと感じました。

何故なら、前半部分
「それぞれの事情とそれぞれの事実」を知っていくという事が重点に描かれ、謎解きの答え合わせの様な形でクィアを配置するのはかなりマズいと思うからです。

これは前半部分をクィア表象を排した状態で描くことにより「世間一般によくある事実認知のズレの話」に感想が集中し
「マイノリティの抑圧された苦しみのストーリー」を「マジョリティ優位社会でよくある感情」と一緒くたにされて、「クィアだけの話じゃないよね。それ以外の人にも当てはまるよね。」とマイノリティの存在や声が「みんな同じ人間」として透明感される事へと繋がると感じました。

勘違いしてほしくないのが決して違う人間なんだと言いたいわけではありません。

マイノリティ側からしてみたら問題は、属性で分けるなと言うことではなく「同じ人間であるなら、何の咎を受ける事なく享受できるはずの権利や制度や幸せを手に入れるのに、何故こんなにも抑圧や苦しみに耐え、マジョリティの顔色を見なければいけないのか?」という事だからです。


こういう感想に疑問を持つ方には是非2回目を見て欲しい。
子供2人が、2人の事実や気持ちを正直に大人たちに話せないのは
「普通の家族を持ってほしいだけよ」と言う母親。
「男らしくないぞー」と言ってくる先生。
「お前の脳は豚の脳」と言う父親。
オネェ芸人が消費されるテレビ番組。
そう言う無意識かつ意識的な『普通』の押し付けが社会に溢れているからであって

それを「子供同士の事って親に言い辛いよね」とか、「子供も大人に気を使うよね」、「それぞれの事実があるよね」などという、マジョリティが何一つ『普通』に違和感を持たなくても大丈夫な安全圏から『普遍的な話』として鑑賞すべきではないと感じたからです。


脚本は流石、是枝監督!という出来だし
教授の音楽も素晴らしい。
しかし日本社会の「人権」への道は長いな。。。とやはり思ってしまうのです。
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